#007 ハイブリッドスラスタ燃焼試験プレスリリースを徹底解説!|ElevationSpaceの『宇宙、配信中。』
ElevationSpaceの『宇宙、配信中」は、プレスリリースやイベントでは伝えきれないディープな情報を、宇宙ビジネスを取り巻くホットな話題とともに、社内の様々なメンバーと楽しくお届けするポッドキャスト番組です!
第7回目のゲストは、3月26日にプレスリリースしたハイブリッドスラスタ燃焼試験成功について解説いただくべく、ElevationSpace推進系チームの3人と、共同研究を行う東北大学・齋藤先生にお集まりいただきました。インタビュアーは広報PRの武藤です。
ー 今回は、「宇宙配信中」史上初、社外からのゲストもお招きしてお送りします。皆さんから一言ずつ、自己紹介をお願いします。
千葉
ElevationSpace推進系チームのマネージャーをしております、千葉です。よろしくお願いします。
亀山
同じく、ElevationSpace推進系チームの亀山です。設計を担当しています。
喜田
同じく推進系チームの喜田です。主に試験関係を担当しております。
齋藤助教
東北大学学際科学フロンティア研究所で助教をしております齋藤勇士と申します。
宇宙工学の研究を行っておりまして、ロケットやスラスタの内部の流体とか燃焼の研究を行っております。よろしくお願いします。
東北大学学際科学フロンティア研究所 研究者紹介ページ
researchmap 研究者ページ
ハイブリッドスラスタとは?なぜElevationSpaceが開発を?
ー 3月26日、皆さんに対応いただいたハイブリッドスラスタの燃焼試験について、プレスリリースさせていただきました。
「世界初の宇宙実証を目指す小型衛星を地球に帰還させるためのハイブリッドスラスター、実機に近い試験モデルによる長時間燃焼と、真空環境下で軌道離脱相当の推力計測に成功」という大変長いタイトルで、東北大学と連名で発表させていただいております。
メディアでも多数取り上げていただいており、このプレスリリースを紹介した弊社代表・小林のポストが、700いいね・200リポストを超えるなど、かなり反響をいただいております。
この配信では改めてハイブリッドスラスターとはそもそも何なのか、燃焼試験っていうのは一体何をやったのかという基本的なところからお話いただきつつ、「プレスリリースでは伝えきれないディープな情報」をお聞きしたいと思っています。
ー まず、ハイブリッドスラスタとは一体何なのか、なぜそれをElevationSpaceが手掛けているのか、教えていただけますか?
千葉
そもそも、「スラスタ」という言葉にあまりなじみがないと思うのですが、「ロケット」が大型の推進装置なのに対し、「スラスタ」というのは小型の推進装置というイメージです。
それが「ハイブリッド」、つまり何かと何かを掛け合わせているわけですが、固体燃料と気体/液体酸化剤を掛け合わせた推進装置が「ハイブリッドスラスタ」ということになります。
ElevationSpaceでは、宇宙から地球に帰還する人工衛星を作ろうとしていますが、そのためには大きな推力が必要になります。そのための推進装置として、ハイブリッドスラスタ開発を行っています。
なぜハイブリッドスラスタに着目しているかと言うと、安全かつ高推力を生み出すことができるスラスタだからなのですが、例えば、プラスチックのような身近で安全な素材を燃料にしているため、取り扱いが簡単で安全という利点があります。取扱いに特殊なスキルや資格が要らないため、プレスリリースしたような試験をたくさんできるというメリットもあります。
また、ハイブリッドスラスタは燃料・酸化剤の組み合わせ次第で、高い推力を出すことができます。ElevationSpaceが開発する「ELS-R」のミッションとして、宇宙から地球に帰還するためには非常に大きな推力が必要になりますので、安全性と高推力というバランスの良さから、ハイブリッドスラスタを開発しています。
ー ハイブリッドスラスタに関しては、今回のプレスリリースより前にも、2回ほどニュースを出しています。
2023年3月には「真空での着火試験に成功しました」というリリース、そして2023年8月には「大気中での燃焼試験に成功しました」という内容でした。
「長時間燃焼」とは具体的にどれくらい?
ー 今回、2024年3月のリリースは「実機に近い試験モデルでの長時間燃焼」と「真空環境下での軌道離脱相当の推力計測」に成功したという内容ですが、「長時間燃焼」というのはどういうことなんでしょうか?
亀山
まず、宇宙から地球に戻ってくるために必要なエネルギーを獲得する方法として、
①巨大な推力で短時間燃焼させてエネルギーを獲得する方法と、
②そこそこの推力で長時間燃焼させて戻ってくる方法、のふたつがあります。
どちらの方法を選択するかは、衛星の大きさや目的によっても変わってくるんですが、私たちの「ELS-R」では、宇宙へ行ってから地球に戻るまである程度の期間があるため、できる限り貯蔵性の良い酸化剤や燃料を使用する必要があります。
また、構造をシンプルにしてコストダウンを狙っていく必要もあったため、これらを実現する方法として、共同研究先の齋藤先生とも協議を重ねて、②の方法、そこそこの推力だけれども、長時間燃焼させることで必要なエネルギーを獲得するという方法を選択しています。
ー 「ELS-R」では、衛星の中にお客様からお預かりしたものを積み込んで宇宙空間に打ち上げて、実験とか実証を行った後、3か月・半年・1年というような期間を経て帰ってくるので、宇宙空間における貯蔵性というのが必要になるんですね。
ちなみに「長時間燃焼」とは具体的にどれくらいなんでしょうか?
亀山
今回の試験では3分以上燃焼を継続させることができました。
ハイブリッドスラスタでこれだけ長時間燃焼させたというデータはほとんどないので、学術的にもかなり貴重なデータが獲得できたと思います。
真空燃焼の難しさ
ー 前回は大気環境下での試験でしたが、今回は真空環境下での試験でした。「真空」の難しさみたいなものがあれば教えていただけますか?
喜田
今回の試験は、真空環境でのどれくらい推力が出ているかを正しく計測するというのが最大の目的でした。
真空環境だと起こりえる様々な問題というのはあるんですが、我々のハイブリッドスラスタで言うと、比較的、真空環境でもトラブルが起きにくい構成になっていると思います。
通常、真空では「点火しづらい」というのがネックなのですが、現在開発しているハイブリッドスラスタは、点火を安定して行うことができる低毒推進薬を使用しているため、その点で非常に安定したシステムになっています。
ー 真空環境での燃焼試験ということになると、設備や人員もかなり大掛かりなものだったんでしょうか?
喜田
ロケットエンジンの真空燃焼ができる設備というのは、日本国内だと、おそらく片手で数えられるぐらいしか存在しません。その内のひとつであるJAXAのあきる野試験設備をお借りすることができ、今回無事に真空燃焼試験を実施することができました。
人員に関しても、社内のメンバー3人+齋藤先生に加え、JAXAの方々などにもご協力いただき、最大で十数名が関わる試験になりました。
ー そんな試験を、10月から2月という長期間にわたって実施しました。この3~4か月の期間、どういうサイクルでどんなことを行ったんでしょうか?
千葉
大きく分けると、まず準備期間があって、実際に燃焼させる試験をやって、解析をして、というサイクルにはなるんですが、我々がやっているのは開発品なので、試験のデータを取りながら、その都度みんなでアイデアを出し合い、次の燃焼で工夫するというようなサイクルでした。
全部合わせると11回燃焼をさせたので、大体2日に1回火をつけるというペースでした。
東北大学・齋藤助教とElevationSpaceの関わり
ー それではいよいよ、齋藤先生にもお伺いします。
今回の試験にも張り付いていただいたわけですが、そもそも齋藤先生とElevationSpaceが共同研究を行うに至った背景には、どういう経緯があったんでしょうか?
齋藤助教
2020年の秋ごろからミーティングに参加させていただいたのが始まりだったと思います。
共同創業者/取締役の桒原先生は、私が学生時代からよく存じ上げていて、東北大学でこんな素晴らしい研究を行う先生がいるんだ…と学生ながら思っていたんですが、縁あって私が東北大学に赴任することになり、その後、現在の独立ポジションに移る直前ぐらいから桒原先生とコンタクトを取らせていただくようになりまして、研究開発に携わらせていただくことになったという経緯です。
ー 齋藤先生は今年の3月、宇宙科学振興会の宇宙科学奨励賞を受賞されています。その受賞業績も「端面燃焼式ハイブリッドロケット(スラスタ)の燃料特性および推力制御特性の解明」という内容だったんですが、先生はずっとハイブリッドスラスタを専門にされているんですか?
齋藤助教
そうですね、学生時代からロケットもしくはスラスタの研究をずっと行っています。
実は、亀山さんとは北海道大学の学部からずっと一緒で、研究室も一緒だったんです。亀山さんは岐阜高専、私は沼津高専出身で、北海道大学の編入試験を受けた時から面識があって、合格発表もお互いに確認し合い、その後の研究室も一緒という…
なのでここで、こういう形で再会して一緒に仕事をするというのは縁を感じています。
北海道大学には、推進系で有名な永田晴紀先生という方がいらっしゃって、その研究室でロケットの開発を進めていらっしゃったので、私たちもそこに憧れて門を叩いたんです。
It’s not rocket science.
ー 齋藤先生が学生時代から今までずっと、研究対象としてハイブリッドスラスタに着目をされているのにはどういう理由があるんでしょうか?
齋藤助教
私が一番に思っているのは、「宇宙開発をより身近なものにしたい」ということです。
つまり、今、宇宙開発が身近ではないという問題意識があるからなんですが、英語の表現で、”It’s not rocket science.”というフレーズがあります。直訳すると「ロケット科学じゃないよ」となりますが、これは「そんな難しい話じゃないよ」という意味で使われる言葉なんですね。
宇宙工学や宇宙開発というのは、世の中の人からすると非常に難しい話で、そう思われているという現実があると思うんです。
私は、この状況を打破したいと思っていて、”It’s not rocket science.”という言葉をなくしたいという思いがあります。
そして、「宇宙工学は難しい」という常識を打ち破るキーコンポーネントが、ハイブリッドスラスタだと思っています。
ハイブリッドスラスタの特性である、非常に安全で構造もシンプル、取り扱いがしやすいという利点を生かし、人類の叡智を結集しないとできないと思われていた宇宙開発を、より身近に、よりシンプルにできるようにする。それを実現するために、研究を行っています。
ー 最後に、ざっくばらんに、今回数か月にわたる燃焼試験の大変だったことなど、エピソードがあれば教えてください。
齋藤助教
苦労…いや楽しかったんですけどね!(笑)
例えば今回だと、千葉さんがマネージメントをして、亀山さんが設計開発をして、喜田さんが現場に出て指示をして作業してという、少人数の体制だったので、1人1人のエフォートが100%を超えるような状況だったので…もうフル回転でした。
燃焼試験が終わったらもう次の朝にはクイックレビューが始まるので、皆さんが4か月間、寝る間も惜しんで開発していった、ネジを閉めながらデータを見てExcelを見てっていうような感じで…涙なしでは語れないですね。
ー その雰囲気はすごく伝わってきておりました。少数精鋭が少数すぎるよ!みたいなところもあったのかなと思います。本当にお疲れ様でした。
先ほどの”It’s not rocket science.”のお話、すごく興味深いなと思って聞いてたんですが、先日、日本のロケット企業が打ち上げに失敗した際、イーロン・マスクさんが”Rockets are hard”とポストされてたのが話題になりました。
「ロケットは難しい」、でもそれを難しくないものにするための様々な歩みが、いろんなところで行われているんだと思います。
きっと皆さんの、そして我々のこの苦労や苦しみも、身近な宇宙開発という未来につながっていくんだろうなと思っています。
皆さん本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。
この番組では、みなさんからの感想やこんな話が聞きたいというリクエストをお待ちしております。Xで #宇宙配信中 というハッシュタグで投稿してください。
編集部員の励みになりますので、ぜひフォローやいいね、お願いします!
それではまた次回の「ElevationSpaceの、『宇宙、配信中。』」でお会いしましょう!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?