新クトゥルフ神話TRPG「居酒屋テケリリ」について〜熱く燃え上がれ(制作秘話)〜
※ネタバレには一応配慮していますが、後半はネタバレ全開で書きますのでご注意ください(ラブクラフトの肖像で区切っています)
好きです、○○(これを言ってしまうとネタバレになってしまうため伏せます)
酔っ払いながら○○が名台詞と共に○○する動画を延々と見詰めながら思いました――誰かを守りたいと思う気持ちに組織や欲望の垣根があるでしょうか、例えそれが正気と引き換えの酩酊に溺れた合コンの席だとしても、(あらゆる種類の)好意を寄せる誰かのためなら進んで罪を背負い、その罰を甘受する非合理性こそ、人間の心だと思うのです
これ以上伏せ字を続けてると記事として成立しなさそうなのでやめておきます、興味を持って頂いた方は既に回すために真相を読んでいるでしょうし、回っていただく方はそのために敢えて情報を遮断しているでしょうし、とりあえず前半は○○について語るのはこのくらいにしておきます。
事の発端は数日前、なにかこう…みんなでわいわいできるシナリオを書こうと思い立ったのです。前作の「アルタエウカリスト」がタイマンシナリオな上、原作にあたる私の短編小説「エウカリスト」がどこまでも笑えない小説だったので、だったらみんなでロールプレイしつつ笑えるシナリオを書こうと。
しかし、通常のコメディなら私より優れたものが星の数ほど存在します。チャップリンやジャック・タチには恐らく死ぬまで叶いませんし、それをシナリオに落とし込む技量も経験値もありません。だとすれば、いささか抜け道のきらいがありますが、私っぽいコメディを――かっこつけて言うなら「私にしか書けないコメディ」を、ということで、冒頭の〇〇に行き着きました。
にしても、ありがたいことに3日で告知ツイートが450RT、DL数も300近くに達したのですが、2.3日で書き上げテストプレイも省略したパーティ系シナリオが、POWを削りラウンドも削りへろへろになりながらテストプレイも入念にこなした「アルタエウカリスト」の実に6倍ものDL数を数えているのは、なんといいますか、複雑な気持ちです。皆様に楽しんでいただけるなら私としては全然構わないし嬉しいのですが、アルタエウカリストのことも忘れないでいただけると嬉しいです。
ここで制作秘話をみっつ。
ひとつめ:本来はPLがリアルお酒を飲みながら合コンRPをする飲酒セッションを想定していたため、シナリオ内の本文の半分以上は実際に私がお酒を飲みながら書きました。エンディングの分岐などは、素面のときにあれこれ確認しながら書きましたが、とにかく酔っ払いながらネタを仕込んだつもりです。酔っ払いの気持ちは酔っ払わなきゃ分からないだろー!という心意気でしたが、そもそもお酒が飲めない方や未成年の方が、合コンという世界を探察者という存在を介して疑似体験できることもTRPGの醍醐味だろう、ということで飲酒セッションという文言は意図的に削除しました。無論、KP裁量で飲酒セッションに設定するのは全然構いません。その際は未成年の方が参加してしまわないように配慮をお願いします。
ふたつめ:シナリオを読むなり回るなりすればすぐに分かると思いますが、とにかく何をするにもダイスを振ります。これは前回のシナリオ「アルタエウカリスト」のテストプレイの後で「TRPGである以上、ほぼみんなダイスで命運がわかれる的な展開が好きだと思う」という意見を頂戴しまして、だったらダイスを振りまくれる、場合によってはそれで正気度が回復もするし、反対に減りもする、そんな居酒屋を作ってみました。
みっつめ:私は合コンなるものに参加したことがありません。合コンシナリオを書きながら何言ってんだこいつはってなるかもしれませんが、複数人で酒を飲むのは苦手です。一対一なら酔って饒舌になり得ますが、三人以上いるとみながみな喋りまくるので、発言をカットインする機会を見失い、生来の内省的気質が顕在化して寡黙に自分の世界に閉じ篭もるか、或いはべらぼうに飲みすぎて誰彼構わず無差別に爆撃するかのどちからです。なので、合コンの中身自体に関してはロールプレイに丸投げしました。てへ。
そんな感じで、愉快に合コンRPできるシナリオを書いたつもりです。
興味がある方は是非、回してもらうか、回ってみるかしてみてください。
以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。
HO1がショゴスの姿に変貌する際に発する台詞は、エゴサしていると気付いていた方もいらっしゃったようですが、ご名答です。仮面ライダークウガの名台詞であります。
参考動画
ですが、実際にイメージしていたのは仮面ライダー555です。仮面ライダーに変身し、人類の敵であるオルフェノクを駆逐し続けていた主人公の乾巧が、実は……という設定が当時はあまりに衝撃的且つエモ過ぎて、その時に刻まれた何かが私の記憶に残っていたのでしょうね。本来、人間を狩るべきショゴスロードが人間に対して友情もしくは愛情を抱くことで、店主ショゴスに対してショゴスという種族としての立場を捨てて人間と共同戦線を構築する、という展開が書き手として想定している展開です。と言うか、そうしないと店主ショゴスに勝てないように、店主ショゴスの各種数値を少しだけ調整しました。先述の通りテストプレイを省略したので、一応ダイスを振りまくって数値の傾向を調査したとは言え、実際、人間だけで店主が倒せるのか、HO1がショゴスに変身しても店主を倒せないのかは、未知数だったりします。頂けたご意見に関しては適宜シナリオに反映し数値を調整した上で改めてアップロードさせていただきますので、何かありましたら何でも言って下さい。
ここまで書くと、HO1が実質主人公なんじゃないかって感じですが、HO2がドラマの中で担う役割も無視できません。彼はショゴスのような怪異を排除して人類全体を守護する秘密結社の潜入捜査官です。であるため、共同戦線を張ったHO1を、人類全体の安寧のために排除するのか、或いはそこに友情めいたものを見出して彼だけは見逃すのか。その選択も、HO2を担当するPLによって下される選択です。私としては、人類のためを思うなら最後に人間の姿に戻ったHO1の頭部に泣く泣く弾丸を撃ち込んで殺害する選択もエモいと思いますし、無論熾烈な戦闘の末に育んだ友情故に彼を見逃すのもエモいと思います。彼のイメージは韓国あたりのヤクザ系映画に登場する、主人公に対するアンチテーゼ・キャラクターと言ったところでしょうか。黒いスーツを着て、黒い革手袋をはめて、跪くかつての友人の眉間に、涙目になりながら銃口を突きつけるシーンがありありと浮かびます。できればそのような展開を見てみたいです。
HO3は完全に巻き込まれてしまった人です。しかし、彼には神秘医療教会の学生という立場があったがため、ただ巻き込まれてしまっただけなのに戦闘において非常に重宝する立ち位置になってしまいます。彼はショゴスと化したHO1も治療するでしょうか。彼に装甲を付与するでしょうか。私のイメージでは神秘医療教会は上層部がどこか禁忌的な闇を抱えた組織でありながら、その末端に位置する一介の学生は「傷ついた者を治療する」という理念に燃える若者です。もしかしたら、ひとしきり葛藤した挙げ句、ショゴスと化したHO1すらも治療するかもしれません。或いは、HO1を含めた探索者達の全滅を防ぐために必死に東奔西走する彼を見て、「素敵……」と火事場の恋心を抱く探索者がいてもいいはずです。そうでもしなければ、彼が報われません。しかし、医療とは往々にしてそういった報われない献身を求められるものなのかもしれません。彼に幸あれ、合コンが終わればまた、厳しい訓練と勉学の日々が待っているのですから。
HO4は私の中ではヒロイン枠です。しかし、彼が愛したHO1の正体はショゴスです。それではHO4の抱いた恋心の正体とは一体何なのでしょうか。彼の外見に一目惚れをしたのか、彼の内面に好意を寄せているのか、それはPLのRP次第かもしれません。それでも誰しも、愛した人間が目の前で悍ましい怪物に変貌を遂げたら、きっと軽いパニックに陥ると思います。しかし、それでもHO4はHO1を愛し続けるでしょうか。ここらへんに、人間が、人間をいかにして愛し得るのか、人間以外の何かをいかにして愛し得るのか、というドラマを込めたつもりです。もしもHO4の恋心がショゴスの姿を見ても尚揺るがないとしたら……種族を超えた恋愛感情なんて、ギレルモ・デル・トロの「シェイプ・オブ・ウォーター」みたいじゃないですか?なんちゃって。
そんな訳で、合コンの中身をロールプレイに丸投げしている以上、シナリオはどうとでも転ぶようになっており、それに伴ってエンディングもたくさんの分岐を用意しました。皆さんの感想ツイートを拝見するのが非常に楽しみです。毎日「居酒屋テケリリ」でエゴサしています。一体いくつのセッションが、想定してるドラマを演じるのか。或いは想定以上のドラマがそこに発生し得るのか。いやはや、TRPGとは面白いゲームですね。回した際、回った際は是非感想ツイートしてくれると嬉しいです。
そして。
ここまで読んだ方は察しているかもしれませんし、そう望んでいる私がいます。私は「居酒屋テケリリ」をネタシのように取り扱っていますし、エゴサした限り、ネタシとして受け取られている雰囲気がありますが、私の中では友情(或いは愛情)が種族や正義の境界を超越するのか、愛情の正体とは一体何なのか、といったテーマをできる限り盛り込んだ、とても真面目で感情的なシナリオのつもりです。確かにそれを書いた私は酔っていましたが、酔っていたからこその率直さで、私は「ヒト」の何かについて胸を熱くさせて、それを織り込もうとしたのかもしたのかもしれません。無論、何事も起こらず、誰も犠牲にならず、店主に追い払われて連絡先を交換して終わるエンディングでも構いません。それが本来の合コンですから。あなたの心の琴線に1ミリでも触れることができたなら、物書きとして冥利に尽きます。
ショゴスロードの数値や特徴についてはこちらを参考にしました。下手な資料よりもよほど詳細にクリーチャーや神々の情報が記載されています。しかし、主に探索者として回る機会が多い方は、熟読してしまうと「未知への恐怖」が減ってしまう恐れがあります。(自ら潜在的ネタバレを踏むような本のため) まぁ、リアルクトゥルフ神話技能が上がったと解釈しましょう。KP、並びにシナリオを書く方、必携の一冊です。