14年後(2039年)に高齢者の仲間入りをする人たちの4割は年金が月10万円以下である。
2025年現在、50代前半の世代が氷河期世代のトップランナーで、最後尾は30代後半になる。
年金の持続性が議論を巻き起こしている今日、最も衝撃的なのは
「1974年生まれ(2025年には51歳)が65歳時点で受け取る年金額は
39.1%が月10万円未満、18.1%は月7万円未満である」
という厚生労働省が2024年に算出した予測である。
つまり、実際にはもう少し悪い可能性が高い。
それはそれとして、これと
「50歳代独身の金融資産の中央値は80万円」
50歳時の未婚率は男性28.25%,女性17.81%
であり、離婚者を含めると独身者がもう少し多い。さらに言えば、20歳代後半で離婚が多く、2002年に戦後最高の離婚率を経験したことを踏まえると、この世代、離婚が多い世代でもありそうである。
当然ながら、単身者の方が、二人暮らしよりも生活コストが高く、身体機能、認知機能の低下によって生活が破綻するリスクが高いことも留意が必要だ。
これらを統合すると
2039年以降、氷河期世代が病気・怪我・失職などをきっかけとして一気に生活が成り立たないレベルの貧困ないし生活保護者が急増するとすでに予測できる。
さて、ここから今の51歳、つまり14年後の65歳がどうなるかを予測してみよう。
まず、金融資産の中央値が80万円で賃貸に住んでいる、という状況で年金が8万円/月とする。そして平均的な都内のワンルームに住んでいると仮定する。家賃はおよそ6万円だ。
つまり、働かない場合月々の収入は2万円になる。つまり光熱費・通信費を支払えば手元にお金は残らない。
つまり、65歳を過ぎても働き続ける必要がある、ということだ。
ちなみに2022年時点で、
25-34歳の就業率は86.6%
35-44歳の就業率は86.2%
45-54歳の就業率は86.6%
55-64歳の就業率は78.1%
64-69歳の就業率は50.8%
70-74歳の就業率は33.5%
75歳以上の就業率は11.0%と55歳から下がり始め、64歳から急速に減少する。
このグラフを見ても、高齢世代ほど労働参加率の上りは低く、このトレンドは大きく変わらないであろうことが予測できる。
しかし、55歳から労働参加率は急激に下がりはじめる。
つまり、働かなければ生活できないが働くことができない状況が、4年後から起こり始め、14年後に悪化する。
しかしこの統計をそのまま流用できるかは、怪しい。
なぜかというと、氷河期世代の健康状態は貧困ゆえにそれより上のバブル世代よりもっと悪い可能性が高く、ゆえに早くに健康問題のために働けなくなる可能性が高いからだ。
また、新型コロナウイルス感染症への繰り返しの感染は、後遺症のリスクを高め、老化を進行させ、T細胞を老化させて様々な感染症にかかりやすくさせるのだが、今のところ感染は落ち着く気配がない。
新型コロナウイルス感染症の入院患者を対象とした研究だが、認知機能の低下は20歳の加齢に相当する、という衝撃的な報告もある。
つまり、氷河期世代は61歳になる10年後に、現在の70歳くらい健康状態が悪くなっている可能性がある。
こうした事実を踏まえても、年金の持続可能性はすでに脅かされているように思う。
もちろん国はこれを対策しようとしている。
国民年金の水準を高めるために厚生年金から補填しよう、ということを考えている。
この計画で国民年金だけでも2万円ほど年金が増える公算だ。
しかし、10万円が12万円になって、インフレが起こらないという非現実的な仮定を置いたとしても、2022年の高齢単身無職世帯の平均支出額が143139円であり、これでも赤字である。しかもこの試算は、住居費が12746円であり、つまり持ち家の想定になる。もしワンルーム賃貸に独居の場合、平均支出額は+5万円で、20万近くということになる。これでは年金増は焼け石に水である。
どうやったら救うことができるのか、といえば、再分配だろう。
それも、高齢世代から氷河期世代への再分配だ。
このまま無策で進めば、僕らも絶望死を多く目にすることになるはずだ。
2025年の75歳は、現状の年金と社会保障制度が維持される限り、死亡年齢最頻値で亡くなる可能性が高い。
つまり男性は88歳で、女性は92歳で亡くなるだろう。
しかし氷河期世代の死亡年齢最頻値は、貧困のためにこれより若くなりそうだ。
米国では、高齢世代の死亡率より若い世代の死亡率が高くなるという奇妙な現象が観察されたことがあり、これは例のない話ではない。
そして、この状況を報告したアン・ケースとアンガス・ディートンは次の様に指摘した。
「親が成人した我が子が死ぬのを見るなどということはあってはならない。物事の順序が違う。子が親の葬式を出すべきであって、逆であるべきではないのだ」
僕もそのように思う。
そしてその兆しは…つまり親が子の葬式を出すことが増えるであろう兆しは…残念ながら既に見えているし、まともな対策がされているとは言い難い。