見出し画像

生まれない子供と死んだ神と高齢化が、地方に終末効果をもたらして短期的な利益追求と利己性の発露を促すかもしれない。

トゥモロー・ワールドという映画を知っているだろうか。
不可解な理由で新しく子供が生まれなくなった世界で、内戦やテロが頻発し、舞台となる英国では軍事政権による抑圧が徹底して行われる、そんな世界観のアクション映画だ。

 子供が生まれなくなるということは、明るい未来を想像することができなくなることを示唆する。

自分が死んだ後に自分の家に住む人はいない。
自分の技術を伝えて継いでいく人はこない。
自分の墓参りをしてくれる家族はいない。

このような状況でも、善行を積むことで天国に行けるとか、輪廻転生により来世がよりよいものになると信じることができれば、利他性は維持されるだろう。

しかし現代人で宗教を信じている人は限られる。
例えば2013年時点で、70歳以上で、あの世を信じる人は、31%に限られる。

つまり、宗教がない場合は繰り返しの日常によって積み重ねた信用は、どこかで現世利益に還元するのが合理的な振る舞いになる。

そして、公共財ゲームなど、利他行動を測定するゲームには、終末効果(End-game effect)がある。

これはゲームが終わりに近づくにつれて利他性が低下し、利己的な選択肢を選びがちになることを表現する言葉である。

そして、年齢別の時間選好率は、40歳代までは小さくなるが、その後上昇していく。つまり、40歳が最も長期的な展望で物事を考え、それ以降は短期的な利益を重視する傾向がある。

具体的に割引率は、デンマークの研究で、15-29歳で28.7% 30-40歳で28.4% 40-50歳で25.05% それ以上の年齢で、30%である。

高齢化が進み、子供が生まれない地域では
人々はより利己的(終末効果のため)
かつ短期的な利益を追求する(高い割引率のため)
ようになると推定できる。

利己的な人が多く、短期的な利益を追求する人が多い地域で、人々は子供を作り育てようとはせず、異なる地域で育児出産をしようと考えるだろう。

そうなれば、地域間で平均年齢や高齢化率の差は広がる。

そして利他的で長期的な利益を追求する人々の割合が高い自治体と、利己的で短期的な利益を追求する人々の割合が高い自治体にますます分かれていくだろう。

戦国時代であれば前者の自治体が後者の自治体に戦争を仕掛けて勝利することで利己性が駆逐されただろうが、現代で自治体同士の戦争というのは考えづらい。

経済を武器に戦争していると考えれば、地方交付税を利用して地域おこしのプランを立てるコンサルなどは、地方に行くはずの利益を東京に流しているわけで、東京と地方の経済戦争をやっていると考えることができるかもしれない。

地方の歳入から東京の私立大学医学部の学費を奨学金として受け取り、地域枠として地方で働く医学生も、同様の存在として考えることができるかもしれない。

これはつまり、地方の歳入が東京都の私立大学の学費に使われていると考えることができるわけだから。

こうして国が地方に還流させた富は、地方を豊かにするためではなく、短期的な発展の夢を見る権利や、医療を維持するために消費されていく。

地方は経済戦争に負け、産業を作ることができず、子供は生まれなくなり、若者が流出する。

ここにはポジティブフィードバックの構造がある。

つまり子供が生まれなくなり、若者が流出すれば、地域の平均年齢が上がり、地域の平均的な人間はより利己的に、より短期的利益を追求するようになる。

そうすればさらに子供が生まれなくなり、若者が流出し、平均年齢が上がる。

この傾向を逆転させることができるだろうか。

勿論一定以上に高齢化が進めば、出産可能な女性が共同体に存在しなくなり、人口が増えなくなり、異なる性質を持った人々に入植され、新しい人々と、新しい性質を持った共同体が生まれるだろう。

しかしそうではないやり方は?

社会の持続性、永遠性というのはイデオロギーとしてあるだろう。
危機に備える、というのもそうだ。
今は共同体の危機にあって、各人が協力しなければこの危機を乗り越えることができない、という感覚の広がりは利他性の発露と長期的な展望を維持するのに有効かもしれない。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?