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85歳以上への入院診療が業務の大半になると、医師の身に何が起きるか
85歳以上の医療というのは、常に「これは本当に意味があるんだろうか」
「医療費を有効に使っていると言ってよいのだろうか」という疑問が頭に浮かぶ。
50歳や60歳の患者さんが入院すれば、家族も心配しており、本人も不安そうで、勿論どうすれば良いかを熱心に聞いてくる患者さんも多い。
そのために勉強するし、最良の治療が何かを考える。
必要に応じて同僚や上司、他の専門家とも議論する。
そこにはなんというか、当たり前の医療の姿がある。
そして、適切に治療すれば、良くなることも多い。良くならないような病気であっても、できることは何か、と考えて治療に臨む。
何よりもまず本人が早く退院したがることが多く、そうでない場合もいつ帰れますか、いつ仕事に復帰できますか、と言われることが当然多い。
故に退院調整で難渋することは殆どない。一部の疾患ではリハビリ転院が必要になることがあるが、その場合も本人・家族共にリハビリが必要だと理解してくれることが殆どだ。
85歳以上の患者さんの場合、本人が入院した理由を理解していないことも多い。また、辛い症状があるのはわかるのだが、そのつらさが何に起因するかを知ることが難しいことが多い。
そもそも認知症のために十分なコミュニケーションが取れないことも多い。
また、上司や同僚もこうしたケースには関心を持たないことが多く、専門家も関わりを避けようとする傾向がある。
結果として一人で抱え込む医師は多い。
また、急性疾患を治療しても家族は特に感謝しないことが多い。
このままでは家でみれません、と言われて退院調整をしなければならないことも多い。
退院調整も、なかなか協力してくれないことも多く、頑張って説得して退院を進めてもらわなければならないことがある。
しかし入院中に誤嚥性肺炎を再発したり、せん妄になったり、ミネラルバランスが崩れたり、食思不振になったり、転倒したりして様々な診療が追加で必要になることも多い。
その結果として入院期間が長引く。
こうした患者さんを多く、長く抱えがちになる医師というのは一定数いる。
そうした医師に何が起きるかというと、なんとなく無関心になり、言われたことをやるだけになってくる。
また、看護師の電話に威圧的に対応したり、病棟にあまりこなくなったりもする。周囲と医学的な話をすることも少なくなってくる。
恐らくだけど、あまり勉強もしなくなる。
その結果として入院期間はさらに長くなる傾向となる。
こうした医師は臨床能力も低下していく傾向にあって、そのために若くて複雑な患者さんは割り当てられないことが多い。
結果として、あまり難しい患者さんは割り当てられないから、ということで、さらに高齢の患者さんを抱えることになる。
このスパイラルの結果として実際、メンタルを病んで休職・退職する先生も少なからずいる。
なぜそうなるかといえば、超高齢者医療を診療する枠組みと、通常の医療の枠組みが全く違うからだ。
そして、医学部と初期研修で教わる知識の大半は通常の医療の枠組みである。
しかし病院によっては、内科後期研修で診療する半数以上がこうした超高齢者医療になることもあるだろう。
そこで知識を一から学ばなくてはいけなくなるわけだ。
そしてその知識は特に誰が教えてくれるというわけでもない。
また、一般に後期研修は初期研修よりも教育の度合いは減る。
さらに年次が上がれば、教育を受ける機会はますます減る。
つまり、超高齢者医療の枠組みを一生学ばないまま超高齢者医療を行う医師が複数いて、その脱落率も恐らく高い、ということだ。
医学部や初期研修医のトレーニングというのは結構厳しいものである。
勿論、医学部に入るまでの勉学もかなり時間をかけてきているひとも多い。
そうした人が内科医になって、今まで学んだことが生かせない超高齢者医療と向き合ったばかりに医師として普通に働くことが難しくなってしまうことがある。
さらに悲しいのは、多分これをここまで明確に言語化している人はあまりいないことだ。
というか、超高齢者医療自体がメディアなどではタブーの扱いとなっているように感じる。
そして医学教育においても…。
https://x.com/kidasangyo/status/1878082580052058498
反サロで一番多い職業は、間違いなく「医師」です。反サロデモをすると分かりますが、医師率は3分の1を占めます。次に医療従事者(薬剤師、リハビリ)、大手企業サラリーマン、最後に投資家くらい。反サロ=投資家というのは、数名目立っている人がそうなだけで、多くはない。 https://t.co/k6WhvpEf6b
— 湖西に住む白いカラスの男 (@kidasangyo) January 11, 2025
医師に反サロが多いのは、こうした同僚を多く見ているからなんじゃないかな、と思う。