投資とはいつ死ぬかを決めることである
長生きはすればするほどお金がかかる。
もちろん年金や健康保険、介護保険、高齢者医療制度、生活保護など社会保障制度が完備されている日本ではその事実は実感しづらいが、事実ではある。
一方で投資による収益は、原資が大きいほど大きく、複利を勘案すると早く、沢山投資するほうが大きくなる。
だから、若い頃から、たるべくたくさん投資すると長生きしても資金が足りる可能性が高まる。
現在を我慢してたくさん投資すると老後資金が潤沢になる可能性が高い。
一方で、あらかじめ長生きしないと決めていれば、たいして老後資金はいらない。
長生きするつもりがなければ、蓄えた老後資金は文字通り死に金になる。
子供がいる場合は相続されることで家系の繁栄につながるかもしれないが、現代の教育熱は子供に財産をそのまま残しても上手く使ってくれないのではないか?という恐れが根底にあるように思う。
親が長生きするようになって、相続イベントの発生は子供が50歳、60歳になってからだというのもある。
生前贈与はバルザック「ゴリオ爺さん」で描かれたように、家族の絆を崩壊させるリスクがあって、与えれば与えるほどに軽んじられる可能性もある。
だからまあ、基本的には投資は自分のために行うわけだ。
そして給与のどれくらいを投資するかだが、これは何歳で死ぬつもりかによって変わってくる。
60歳までに死ぬつもりなら投資する必要は殆どない。老後資金を準備する必要もない。日銭を稼いで生きればなんとかなるだろう。
一方で90歳まで生きるつもりなら、60歳までに2000万円と持ち家が必要かもしれない。
今の高齢者世代は長生きすることに希望を持っていた。
予防医療や健診の効果は過剰に喧伝されていた。
老化の影響は無視されるようになった。
認知症の最大のリスクは加齢、ということを高齢者に話すと驚かれることは稀ではない。
そして歴史上かつてないほどに充実した社会保障制度のもと、歴史上最も長生きすることに成功した。
この世代を見て思うことは、長生きするというのはそれほど幸せなことではないのかもしれない、ということと、ある世代に世界一長生きしてもらうためには、膨大な人的資源と資金の投入が必要だ、ということだ。
株式投資とそこからの資産取り崩し戦略を考えた場合、限られた資金をどのように活用するかを意識することになる。
老後資金は有限だということを意識しなければならなくなる。
もちろんお金を使い果たせば生活保護になれば良いと考えているかもしれないけど、生活保護をもらうためには資産があってはいけないし、生活保護を受給した場合当然ながら人生の自由度は下がる。
社会保障制度の永遠性を信じず、投資資金を自分の老後資金にするなら、何歳で死ぬつもりかを計画しておくのが合理的な選択肢になる。
株式投資とその取り崩し戦略を学んで、社会保障の持続可能性に疑問を抱けば、多くの人はこの結論に至るのではないかと思う。
そしてつみたてNISAを今や多くの人がやっているから、いずれこの事実を実感することになるだろう。
ここからは今の社会保障制度を前提として考える人たち向きの記載だ。
長生きすればするほどにお金がもらえ優遇される社会は、戦後の人口ピラミッドが三角→釣鐘→つぼ型に変化する過程と高度経済成長の原資で奇跡的に維持された。
高齢者の労働力を活用することで、まだまだ頑張れると語る人もいる。
でも2002年から2022年までの間に
65-69歳は35.5%→52.0%と16.5%上昇し
70-74歳は22.2%→33.9%と11.7%上昇しているのに対して
75歳以上は2.0%の上昇に過ぎない。
今後問題になるのは、高齢者の高齢化だ。
つまり、上図の黒線で示されるように、75歳以上人口が増えていく。
人口動態が変化する中で、労働力が貴重になっていく。
つまり、人に何かをしてもらおうと思えば、高額になるのだ。
そうなれば自分で身の回りのことをいろいろとやっていかなければならないが、年を取るほどにそれは難しくなる。
一定の金額を貯めてそれを取り崩しながら生活する場合に、人件費の増加を考慮に入れるだろうか。
恐らく労働力が最もかかりIT・オートメーション化が難しいのは医療・介護領域である。AIも結局、得意なのは翻訳、絵を描く、文章を書く、将棋、囲碁などで、予測不可能な行動をする人間の対応は難しい。
それに電気代の問題もある…。
だから社会保障を手厚くしているのが現在の政府の方針だ。
しかし社会保障費は無限に増大できるものではない。
どこかに限界があり、その限界を超えて社会保障に人員と資金を投入し続ければ、インフレ、国家財政の窮乏化、医療分野以外の人的資源の減少、若年層の困窮など国家を不安定化させる要因を悪化させる。
そして国家が不安定になれば最早社会保障は機能しない。
医療を進歩させることで年老いても健康に、認知機能・身体機能を保つことができるのではないか?と考える人もいるだろう。
その認知症予防に対する成果がレカネマブだ。
年間約500万円かけてアルツハイマー型認知症の進行を半年遅らせる薬だ。
老化に対する医療は収益逓減に至っている。