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なぜ医療費の自己負担割合が30%から10%に減っても死亡率が下がらないのか ー外来視点での考察ー


https://www.e-stat.go.jp/microdata/data-use/jirei/02


上記二つのグラフは外来の自己負担割合が減って、外来受診が増えても高齢者の死亡率が下がらない=効果がないことの何よりの証明だろう。

さて、なぜこんなことが起きるのかをまず考えてみよう。


1.外来準備が不十分である。


病院の外来を受診する時、自分が内服している薬の内容を覚えていない高齢者は多い。
過去に罹患した疾患を覚えていないことも多い。

一方、病院に通院する75歳以上は、平均して6.4種類の薬剤を内服している。

また、高齢であればあるほど過去に様々な病気に罹患している可能性が高い。

つまり、後期高齢者は内服する薬の数が多く、罹患した病気も多いのに、その情報を伝えない傾向がある、ということである。

こうした状況で外来を新規に受診しても、意味のある治療ができる可能性は低い。複数の医療機関から似たような効果の薬が複数処方されて、薬剤副作用が出現し入院まで必要になることさえ経験する。

こうした事態を避けるためにマイナ保険証が導入されたはずだが、今のところマイナ保険証の普及率は75歳以上で2-4%程度と全く進んでいない。

2.不要な薬が処方される

例えば85歳以上では高血圧は死亡リスクを上昇させない。
なので、この年齢において、高血圧を治療する必要はない。
後期高齢者医療健康診査は75歳以上を対象とした健診で、東京都では500円、自治体によっては無料だが、健康診断には寿命を延ばす証拠は未だに示されていない。
しかし一般的に、健診で85歳の患者さんが血圧が高いと言われてクリニックを受診した場合、降圧薬が処方される。
こうなればクリニックは生活指導管理料Ⅰを毎月請求できる。
7000-10000円/月程度の請求になる。自己負担額は1割であるから、国庫ないし保険組合からの支出は年間10万円程度になる。
高血圧を治療するのは死亡率を下げるためであるが、死亡率が低下しない医療であるから、患者の利益はない。
勿論、保険者や国にとっては純然たる損失である。
少し話がそれた。

3.老化に伴う症状で病院を受診するため


老化に伴う物忘れ、関節痛、不眠などで病院を受診する後期高齢者は多い。
物忘れに関しては後期高齢者で、アルツハイマー型認知症と診断された場合は、アリセプトが使用できる。しかし(ささやかな)効果が示されている5mg,10mgを内服させ続けることは副作用のために難しいことが多い。結果的に3mg内服が継続されていることをしばしば経験するが、この投与量で認知機能の悪化を遅らせることができると言う証拠はない。

関節痛に関しては鎮痛薬やリハビリが処方されることが多い。特にリハビリは人気があるように思える。
そしてこのリハビリが一番闇が蔓延っているように感じる。
実際、リハビリ、不正請求で検索すると不正受給のニュースが複数観察される。

不眠も、ベンゾジアゼピン系薬が処方されることが時にあり、これが転倒、外傷、せん妄、認知症を引き起こすことがしばしばある。

結局、こうした老化に関する症状に対して加療することが、本人の利益になっているかはかなり疑問に思えることが多いのだ。

4.そもそも高齢である時点で、治療効果が乏しくなりがちなため

超高齢者は、若い人よりも死にやすい。だから、ある病気1つを予防しても、別の死因10個くらいも同時に予防しなければ、死亡率低下が意味のある変化として出現しづらい。一方で、複数の予防薬を内服すると、腎臓や肝臓の機能が衰えている高齢者は、薬の副作用のために死亡率が高まる可能性がある。
こうした理由から、高齢者で高い治療効果を示すことは一般に難しい。


もし凄く困っていて、過去の病気や内服薬、症状の経過をしっかりと説明できるように準備してから病院を受診する場合、確かに意味のある結果が得られることも多いだろう。
現役世代は仕事を休んで病院を受診するから、こうしたことに関してしっかりと答えられることが多い。

しかし、後期高齢者で働いている人は10%程度だから、多くの後期高齢者にとって病院はいつでも受診できる。自己負担割合は1割で、住民税非課税世帯の場合は高額療養費のおかげで外来は一か月でどれだけ受診しても8000円だから、お金が無駄になる感覚も実感しづらい。

こうした理由から意味のない治療や検査を受けてしまう可能性が高い。
意味のない治療や検査は医療費を増やす。
意味がないから死亡率は下がらない。

こうした理由で自己負担1割は高齢患者さん自身に利益をもたらしていないのではないかというのが、外来診療を実践しての実感である。



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