
弱者を支援するとして弱者を騙る人をどのくらい支援するべきか?
弱者を支援する過程で、弱者の振りをしている働きたくない人、というのは一定数紛れ込む。
これは病気の診療をしていると、一定の割合で詐病が紛れ込むことと似ている。
そして、疾病利得として、生活保護受給のため、もしくは維持のため、というのが時に存在する。
さらに難しいのは、維持しているうちに、本当に病気になってしまうことがあることだ。
つまり、寝たきりの振りをして本当にベッドから動かなければ、寝たきりに由来する病気にかかる可能性が高まるのだ。
生活保護制度は今のところ修正される見通しはない。
氷河期世代で非正規雇用の割合は男性5-10%、女性30-40%程度だろう。
さらに、氷河期の先頭走者である、現在の50代前半の給与は下がっている。
今後介護保険料や医療保険料、年金や増税などで手取りはさらに増える見通しだし、インフレと円安によって日本円の価値はさらに下落してくることが予測される。
つまり、手取りがどんどん減っていくことが予測できる。
以前話した通り、この世代は持ち家率が低く、独身である割合が高い。また独居の可能性も高いし、両親は加齢に伴い扶養可能な状態ではなくなっていくだろう。
本来であれば生活保護を受給するためには、
1.資産を持たない
2.働く能力がない
3.年金や手当が十分ではない
4.親族からの援助を受けることができない
という条件を満たす必要があるのだが、氷河期世代で独身で賃貸に住む、中央値レベルの貯蓄(つまり、80万円)を持つ非正規労働者は、親と疎遠である場合、失職した段階で、雇用保険が切れ次第(つまり、90-360日)、生活保護を受給できる状態になってしまう可能性が高い。
つまり、婚姻率や持ち家率が高く、厚生年金を受け取る見込みがあるバブル世代以上の年上世代と比べて、生活保護を受給するための条件を既にかなり満たしてしまっているのだ。
また、働いて得られる金額と、生活保護での生活をどうしても比較してしまうだろうし、重税化にともなって生活保護受給者の生活は相対的に改善してきている。
これがさらに快適になれば、生活保護受給を躊躇う理由はあまりなくなる。
さらに、求められる条件は、働く能力がないことを証明するだけだ。
そして、働く能力がないことを示すために病気のふりをする、というのは誰もが考えることだろう。
ここでフリーアクセスが問題になる。
つまり、病気の演技が下手でも、見抜くのが最も苦手な相手を見つけて演技すればいいだけなのだが、もし最初に地元の特定のクリニックを受診しなければならない場合、まず彼を完璧に、つまり診断書を記載させるくらい、騙さなければならない。しかし、クリニックで初診して専門でもないのに客観的な根拠のない疾患の診断をつけるのは躊躇うだろう。そこで専門施設を紹介するが、専門家は当然ながら精査をして、詐病を見抜くわけだ。
フリーアクセスでない場合はこれで演技は失敗に終わる。
この方向性は諦めて、まじめに働くだろう。
しかし、フリーアクセスではなく、クリニックが過多な場合、一つのクリニックで失敗しても、別のクリニックを受診すればよい。自分の演技で騙せる程度の臨床能力の医師にあたるまでクリニック通いを続けることができるのだ。
その中には、演技を見抜けないことが利益になる相手を見つけることも含まれる。医師側も経営に困っていれば演技に騙されることを望むかもしれないのだ。
そしてもし演技で騙せてしまった場合、彼は演技を続けなければならなくなる。
トマス・ピンチョンの小説「ヴァインランド」の主人公、ゾイド・ホィーラのように…。
実際、こうした患者さんが多いかというと、かなり少ない。
でもいるし、社会構造の変化によっては増えるだろう。
というか、既にその兆候はあるように感じる。
増えないことを祈っている。
祈る以外に詐病を増やさないためには
1.減税
2.手取りの増加
働いた方が生活保護を受給するより良い暮らしができるなら、働く人も増えるだろう。
3.生活保護におけ各種扶助の引き下げや監視の増加
これはつまり、生活保護の魅力を下げることだ。
4.医療におけるフリーアクセスの廃止
医療機関へのアクセス制限は、診断書の乱発を防ぐ。
5.マイナンバーカードの普及による受診記録の強制的な参照
これも上記に類似する。不自然な受診歴は医師に診断書を書かせることを躊躇わせる。現在マイナンバーカードによる医療機関受診の参照は、同意があったときだけだし、そもそもマイナンバーカードを取得する時点で同意が必要だ。
他にも幾つか方法はある。
しかし難しいのは、恐らく生活保護を受給しようと演技する人は、事実ある程度は社会的弱者でもある、ということだ。
だからと言って医療保険で彼らを診療することはその法律に反する。
詐病は詐欺だから自費診療になるのだ。
色々な方向で、そうした演技をしづらくするようにすることで、予防できれば良いと思う。