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社会保障制度のハードランディングはいつでもできるけど、ソフトランディングのために残された時間は15年しかない
現状の社会保障制度を崩壊させるのは簡単で、何もしなければよい。
何もしなければ時間と共に破綻するだろう。
現時点でもその兆しは生まれていて、必要な抗菌薬が不足している。
COVID-19が蔓延した国では、その後にそのほかの感染症が流行していることが報告されている。真菌、結核、マイコプラズマ、アデノウイルス、RSウイルスなど、かなり多様ではある。本邦で言えばオミクロン流行期に誤嚥性肺炎は増えていた。
つまり、今後抗菌薬の需要が増えることが予測される。
これに対応するには、薬剤を作ることで得られる収益を増やすしかない、つまり薬価を上げるのだが、これは医療費を増加させる。
他にも医療費が増加する可能性は複数ある。
高齢化の進行、病床の保持と病床利用率増加の圧力に伴う、医療で介護を代替する診療、ガイドライン通りに高齢者医療を実施する風潮などだ。
というか、このまま高齢化は2045年まで進行するので、制度が変わらなければ医療費は増加するのだ。
急に支払いができなくなってあらゆるサービスが停止するようなハードランディングは、繰り返すがいつでもできる。
しかしこれは、逃げ切れなかった全ての人にとって悲劇だ。
興味があれば経済崩壊後のギリシャに何が起きたかを調べてみよう。
一方で、医療規模を徐々に縮小させていくことは今からできる。
過剰医療を減らしていくことは今からできる。
予防医療や健診・検診の効果が高齢化に伴って乏しくなることを鑑みて医療を適切に減らしていくこともできる。
終末期医療や看取りに関する考え方を少しずつ広めていくこともできる。
病床数を減らし、病院を集約化することもできる。
こうしたことが実施しやすいような法制度の改正や、判例の見直しも可能だ。
しかし、まったく先延ばしにはできない。
今から動き出さなければ、歴史上最高レベルの高齢化がやってくる2045年に間に合わない。
歴史上極めて珍しいことに、この高齢化の危機はいつ最大に達するかが予測できる。
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予測された危機にどうやって備えるかだが、実は離脱の選択肢は厳しい。
まず、今後サラリーマンの天引きは増え、手取りが少なくなると予測できる。
また、海外に行く場合、つみたてNISAは続けることが難しい場合もある。
海外脱出するための資金を日本に住みながら増やすことが難しくなっているのだ。
これは手取りが少なくて、投資を始めたばかりの若い世代ほどそうだ。
次に、老人擬態スキームだが、これは現実的な選択肢になる。
サバイバル、というのが選択肢になるのはわかる。しかしサバイバルに舵を切れる人間も少ないように思う。正社員になったらしばらくそれを続けるだろう。公務員も似たようなものだ。
勿論予めサバイブを見越して手に職をつけていく選択肢はあるが、自分が高校生の時を思い出してもそこまでシビアな計算はできなかったように思う。
となると、社会制度改革を進めていくしかない。
そのためには機運の醸成が必要だ。
高齢者対現役世代の対立構造を煽るのは実はあまり良い方法ではない。
ハードランディングを防ぐにはどうすべきか、という観点で話をするべきだ。
なぜなら、経済、医療、国家がハードランディングしても良いと言える人は誰もいないからだ。
80歳であれば確かに15年後にハードランディングしても逃げ切れるかもしれないが、「私はそのころには亡くなっているからハードランディングしてもらって構わない」と主張するのは難しいだろう。
これが議論のスタート地点になる。
いかに医療・社会保障のハードランディングを防ぎ、持続可能な形にソフトランディングさせるか。
全員の損失を最小化するか。
最大の懸念は知らなかった、急に社会保障が壊れた、となることだ。
だから誤解の余地がないように伝えていかなければならない。
知らなかったと思わせないように。
なぜ社会保障の持続可能性に疑問を持つのか?という理由は
4000万人の加入者を要する健康保険組合、協会けんぽの財政構造が危機にある点
財務省の資料で、「中期的にも保険制度が存続できないおそれ」が明記されている点
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そして危機にあるという認識は現役世代に限られ、高齢世代は特段認識していないと推定される点
の3つだ。
10年という時間の根拠は協会けんぽの財政予測モデルだ。
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賃金上昇率0.7%/年、保険料率10%と仮定した場合に、2034年に準備金が枯渇する。
もちろん、国庫による補充はあるだろう。だから直ちに破綻とはならない。
しかし、国庫による補充を継続的に行うためには財源を探し出さなければならない。
だから、10年後の徴税はさらに苛烈なものになっているはずだ。
国家財政の破綻は複雑系の事象に属するから、正確な予測は難しい。
しかし、人口動態上の危機が20年かけてやってくるのはほぼ確実な事象である。医療費と年金の増加、そして現役世代の減少もほぼ確実だ。
そして年金と医療にかなりのお金が取られ、増税が加わる関係上、イノベーションが起きるチャンスは小さくなる。
つまり、予想外の「良いこと」は起こる確率が低い。
一方で、新興感染症の流行、Long COIVDの蔓延による社会の生産性低下、治安の悪化、地震、不景気、気候変動、戦争、世界情勢の不安定化などは起こりえることだ。
つまり、国家財政をさらなる危機に追い込む予測できない「悪いこと」はいろいろと想定される。
インフラの維持管理が十分できない場合、社会の生産性は下がるが、僕らはそれを現在のロシアで見ることができる。
下水道が破裂し、鉄道が止まり、届くべきものが届かず、倉庫は爆発し、暖房が止まり、部屋が凍り付く。薬剤は値上がりし、修理は難しくなり、食品の値段が上がる。お金の価値が下がり、外貨への変換は日々難しくなる。借金の利子は高くなる。
誰が得をするだろうか。現状ではプーチンすら得していないだろう。
こうした事態は避けなければならない。
10年は長い時間ではない。
今から動き出してなんとかソフトランディングできるか、というところだろう。幸いにして減税派の政党がキャスティングボードを握った。
減税は歳入を減らし、危機の到来を早める。
肥大しすぎた社会保障のダウンサイジングには最も適切なタイミングに思う。