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新しい医師の仕事

1940年頃、精神科病院入院、外来患者の4人に1人ほどは梅毒の末期症状である進行麻痺だった。
現代で進行麻痺を見ることは殆どない。梅毒は血液検査で診断が可能で、抗菌薬治療で軽快するからだ。

とはいえある医学領域において、感染症の後遺症が非常に大きな割合を占める、というのは別に珍しくはない。

日本における結核は似たような疾患だろう。
サナトリウムの存在は患者数の多さを物語っている。
1939年には、500人に1人が結核で死亡していた。

屋内での集団生活は結核を蔓延させた。
そして薬物療法の普及と感染対策によって終息したわけだ。

現代においても、新型コロナウイルス感染症は一つの診療領域となりえる程度に流行している。

しかし今のところ、感染対策と急性期治療においては感染症内科、呼吸器内科が主体となって行っているが、後遺症対策に関しては多くの医師が二の足を踏んでいる状態だ。

少なくとも、後遺症になったら何科、というのはない。
現代において、結核であれば呼吸器内科(特殊な結核であればそれぞれの専門科かもしれない)、梅毒であれば感染症科が原則として診療にあたる。(梅毒は筋注製剤があるから、今はもっと誰でもできる治療になったはずだけど)

なぜ診療科が決まらないかといえば、症状の多彩さと保険適応のある薬剤がなく、確定診断できる検査に乏しいからだろう。

また、症状もかなり多様で、自分の領域じゃない!と言いたくなる医師もいるような気がする。

とはいえ梅毒はgreat mimickerと呼ばれ、結核も腸結核、脊椎カリエス、膀胱結核、結核性髄膜炎みたいに、わりかしなんでもあり系の病気なわけで、診断と治療法が確立していない以外にそこまで大きな違いがない。

新型コロナウイルス感染症に関して言えば、PCR検査と抗体検査は少なくとも可能ではある。(抗体検査は保険適応がないことには留意)
だから、診断をつけることの困難はそこまで大きくはない。

治療に関してだが、治療法のない病気など山ほどあるのだし、だからと言って何もしないというわけでもないだろうから、対症療法をしつつ根本的治療法が見つかれば試みるということで良いのではないかと思っている。

とにかく通院してもらって、3か月ごとでも良いから診療を続けていれば、医師は知識もアップデートしようという気になるし、新しい治療が見つかれば適切な医療機関を紹介できるのにな、と思う。

老年医学における人生会議を含めたコミュニケーションと、老化に対する予防医療の縮小と、適切な対症療法、そして新型コロナウイルス感染症後遺症の診療は、多くの人にとって望まれている医療であるように思う。

だから僕はあんまり医師の仕事がなくなってしまうことを心配していない。

コロナ後遺症の手引きがあるし、アドバンスド・ケア・プランニングのガイドラインもある。どちらも無料で、日本語で読める。

そう考えると…新しい医師の仕事は医療費自己負担が一律3割になろうが、減るということはあまりなさそうだ。
コロナ後遺症で苦しむ患者さんは若い人が多いし、アドバンスド・ケア・プランニングを医師が主導していくことはむしろ誰もが望んでいることのように思われるからだ。

師になる人がいないと嘆く人がいるかもしれないけど、診療に関して主体的に判断できてこそ、この仕事を選んだ甲斐があるし、協同意思決定が生きる領域でもある。




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