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no.25 発案 ― コンポーズ(構築)Ⅱ


目的を達成するための道


次に、目的を達成するための道筋を明確にする必要がある。
 
私たちの周りには、人生における明確な目的の重要性についてや、(目的の)ビジョンは心の中で明確であるべきで、常にそれを意識する必要があるなどの教えがある。それが人生に成功し、幸せな人生を手に入れる鍵である。積極的に求めなければ何も得られない、というのである。
 
しかし、平均的な人は、時間を割いてこの教えを読んだり、セミナーに参加したりした時には、この概念に従って精を出すが、1 週間ほども経つと忘れたり、他の誘惑や障害に悩まされたりする。
目的を可視化できたとしても、まだ夢のようなものであり、到達するためのステップが見えていないという人もいるかもしれない。
 
戦略とは、人生やビジネスを取り巻く複雑な現象や要因に対して、目的を一直線に追うのではなく、状況に沿って体系的にアプローチしていく。人生やビジネスに起こりうるさまざまな変化に対応できるようにする道筋のことである。目的への道のりに設定された一つ一つの目標に到達するための多面的なロードマップのようなものだ。
急速に変化する世界と厳しい競争により、戦略を確立することが求められている。
そして、この戦略策定を通じて、プロデューサーは目的を達成するための行動を選択することができるのだ。
 
プレゼンテーションでは…プロデュースを実現するのに必要な人々の協力を得るために、プロデューサーは目的につながるこの道筋も提示する必要がある。
 
利害関係者のそれぞれが、目的が達成されることを望んでいるはずだ。そして、それぞれが信頼し合い、手段を共有できれば、その達成は現実のものとなる。
そのためには目的や目標を実現するための手段を含めた大まかなロードマップを構築する必要があり、このロードマップの構成がコミュニケーションにおいて重要になる。



戦略の作成


目的 <objective> を達成するための戦略は、3つの要素で構成される。 3つの要素とは、投資戦略、管理戦略、実行戦略または行動戦略である。


投資戦略とは、お金、物、人、エネルギーなどを、プロデューサーが目的を達成するためにどれだけ投資しようとしているかである。

この投資戦略を 5つの路線として説明している「Putting it all-together」という題名のウィリアム ロスチャイルドの本がある。 (㉟)

この本は、ハーバード大学の「第二次世界大戦後に書かれたビジネス書ベスト50冊」の1冊に選ばれた。

 

投資戦略の5つのルートは次のとおりである。

 

  • 現状維持

  • 選択成長

  • 多角成長

  • 収穫(刈り取り)

  • 撤退

全部で5つある。

 

「現状維持」は 通常、現状のビジネスに満足しており、この状況を今後10~20年続けてマネージングしていくことを希望しているということだ。あなたが現在に満足しているなら、この戦略が妥当だと考えるかもしれない。しかし、世の中は急速に変化しており、競争は激しさを増している。ビジネスにおいては、現状を維持するだけでも、時代の流れに取り残されないように、適切な投資が必要だ。生き残るための手段を考える必要がある。現状維持はそれほど簡単ではない。維持するためにも、ある程度のエネルギーが必要である。

さらに、現在の市場で成長したいという夢や希望があり、プロデュースの目的を選択した場合は、その路線は選択成長ということになる。

選択的成長とは、この成長を達成するために相当なエネルギーと資産を投資することである。選んだ道筋に、人でも金でも時間でも意図的に投資する路線である。このため、一定のリスクは避けられない。

次の多角成長は、プロデュースを現在の事業分野とは異なる分野、または新しい市場に持ち込む路線である。そのためには、新しい人たちとのネットワークの構築や、新しい知識、能力が必要だ。気軽に選ぶと失敗するリスクが高いが、クリエーターにとっては魅力的な路線でもある。繰り返しになるが、リスクは大きく、十分な決意が必要だ。

収穫の路線はプロデュースとは呼べないかもしれない。ただし、ビジネスでは販売や顧客の数の拡大を追求するばかりではなく、量を犠牲にして高品質の製品やサービスにコミットすることが選択される場合もある。物事をより良くするために戦線を縮小することは、時には良い考えかもしれない。その場合、この収穫は、選択すべき路線に見える。つまり、これまで蓄積してきたノウハウを活かし、利益を確保すると同時に、小さくても役に立つ価値のあるものを生み出すことだからだ。

最終的な撤退路線は、文字通り事業を終了し、新しい製品やサービスを生み出さない路線だ。ただし、一部の企業では、この撤退も選択のひとつである。業績の良いお店や会社をいかに高値で売却するかは、早期リタイア後の楽しい人生を送りたい西洋のビジネスマンたちにとって重要な選択肢だ。多くの有能なビジネスマンは、このオプションを頭の片隅に考えているかもしれないが、これは実際にはプロデュースではない。

ご存知のように、プロデュースとは基本的に選択的成長または多角的成長を選択することである。そこでは、他の3つのルートよりも、さまざまな犠牲とリスクに備える必要がある。

プレゼンテーションの重要なポイントは、プロデューサーが利害関係者にこの犠牲とリスクを納得させる必要があるということだ。彼らはそれを認識し、費用とリスクにもかかわらず、このプロデュースを実行する必要があると確信する必要がある。そんな人たちに「応援しなきゃ!」と思わせるプレゼンが必要だ。そして、「目的を達成するための正しい戦略、リーダーシップ、および管理が犠牲を実りあるものにする。このプロデューサーは致命的なリスクを回避できると信頼できる」という点に彼らを導くことだ。

この投資戦略の次には、管理戦略を定義する必要がある。この管理戦略は、2つの角度から説明できる。これは、コネクト、貢献、およびクリエイトのフェーズで既に説明してきたことの復習と要約である。

1つは、どこで戦うか、もう 1つは勝つための方法だ。

覚えている読者もいると思うが、 Where to Playという単語は、13ページのコネクトステージに記載されている。勝つ方法は、18ページの貢献ステージにも記載されている。また、両方とも 45ページと 46ページで再度説明されている。

Where to Play に関しては、プロデュースがどんな種類の良いこと (便益) を生み出したいのかということだ。

そして、この良いことには、自分自身や競合他社がすでに取り組んでいるかもしれない。  

新しいプロデュースにおいては、 1) ターゲット市場を従来と同じにするか、 2) ターゲットを以前より広くするか、 3) ターゲットを狭くし、より集中するか、といった選択肢がある。

たとえば、既存のすべての市場をターゲットにするか (1 番目のケース)、それを拡大して新しいタイプのユーザーや海外市場を獲得するか (2番目のケース)、あるいは特定のニーズとウォンツを持つプロファイルにより絞り込まれた顧客をターゲットにする(3番目のケース)こともできる。

どこで戦うかによって、市場またはその需要と製品ラインが定義される。例えば、衣服、靴、アクセサリーなどのファッション産業全般は、化粧品やインテリアや音楽などのライフスタイル製品を含む、より幅広いテーマに拡大される可能性がある。または、ファッションビジネスを絞り込んで、シャツや靴下など、より特定の市場のみを扱うようにすることもできる。

このより広いまたはより狭いという分割は、サービスの便益のターゲット設定にも適用できるのだ。

そして最も重要なことは、プロデューサーは最初に、彼が貢献する対象顧客のニーズとウォンツにとって「良い」ものとは何かを決定しなければならないということだ。これがどこで戦うか、ということである。

次の勝つ方法は、理論的に定義し、説明すべきコンセプトであり、プロデュースの<真>と<美>、そして選定されたクリティカルコアだ。

一般的に、勝つ方法には主に2つのアプローチがある。

問題は、同様の製品やサービスを提供する他社とどのように競争し、独自の誇り高い方法でどのようにビジネスを提供するかだ。貢献して勝利する1つの方法は、同じレベルの製品やサービスをはるかに安くして、現在はまだ買う余裕のないより多くの人々、あるいは価格に敏感な人たちに提供しようとすることだ。それは手頃な価格で供給しようとする方法である。この手法は「コスト・メリット」の競争手法であり、前述のファッション(アパレル)業界においても、最近話題となっている「ファストファッション」はこの路線をとっている。市場に効果的に安く商品を供給するために、商品の研究開発、製造、在庫管理・流通、販売などの一連の価値創造の流れをコストに着目して見なおす。

もう1つの方法は「差別化」で、大きく次の4つの方法に分けることができる。

  1. 他人(他社)に真似のできない最高品質の製品または行き届いたサービスを提供する。

  2. ターゲット市場内の個々の顧客の特定のニーズと要望を掘り下げて、オーダーメイドのソリューションを提供する。

  3. 常に革新的な技術やアイデアを求め、時代を牽引する製品やサービスを生み出し、市場をリードする第一人者を目指す。

  4. ヘビーユーザーが購入した商品やサービスを分析し、彼らが認めている利点を評価し、より幅広い製品やサービスで将来の購入を獲得しようとする (または、ヘビー ユーザーのより深いニーズを満たすようにする)。イクスクルーシブなメンバーシップを提供したり、顧客の個人的な都合などと常に密着し、他のブランドやビジネスに心変わりしにくくする。この戦略は、クライアントとの強力なネットワークを構築および維持し、ロイヤリティをより高めることである。

差別化はこの4つの方法に分類できる。

3番目の方法は世間から”イノベーティブ”と賞賛される戦略だが、この戦略の場合でも、まずどこで戦うかの設定が必要。これについては後ほどもう一度説明しよう。

ここまで説明してきたシャネルの経営戦略は、ガブリエル・シャネルが創業当初デザイナーとして主導し、高級品としてトップの地位を築いていくプロセスは「市場での第一人者を目指す」という第3の戦略、差別化だった。一旦このイメージが構築されると、その後のシャネルの戦略的基盤は「最高品質の製品とサービスを提供する」という第一の方法に移行した。

スターバックスの経営戦略も、この「最高の品質とサービスを提供する」の進化版であり、コーヒーの品質、バリスタのサービスの品質、店舗の品質の追求に基づく第1の方法が競争力の原点となる。

イケアの管理戦略は、費用対効果の高い価値を顧客に与えようとするものだ。イケアの「コスト・メリット」の戦略課題は、耐久性に優れ、デザイン性に優れた家具を「いかに消費者に手頃な価格で届けるか」である。

投資戦略や管理戦略はこのような考え方に基づいているが、ここで重要なことは、目的を達成するためにあなたのビジネスプロデュースにはどの路線が最も適しているかということだ。この考え方には、精査した選択が必要。そして、プロデューサーは自分の目的、その「真」と「美」に合うものは何か、を考えなければならない。この選択の結果とそれを達成するための手段は、確固たる選択であるべきであり、戦略の期間中中断されるべきではない。


参考文献:
㉟: 「経営戦略発想法」W.E.ロスチャイルド著(ダイヤモンド社)゙