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年越しインド#2_ベンガル語にまつわるエトセトラ
今回の旅の目的は、お邪魔する先々で料理を習うこと。そして、マーケットで種々の食材を仕入れること。少しでも市井の人々とのコミュニケーションを円滑にするためには言語を学ばねば!ということで、出発直前にKindle書籍を購入。
デリー滞在中は外食ばかりになりそうだったのでヒンディー語はカット。またオリッサの公用語オリヤーOriyaはリソースが乏しく早々に諦めた。ベンガル語Bengaliは音声付きの日本語の教本があり、ローカルとの交流が密だったのもベンガルで、必然ベンガル語の記憶が濃く残った。
ベンガル語の概貌と小学校の記憶
ベンガル文字は韓国語の構造と似ていて、子音のパートと母音のパートの組み合わせで形成されている。母音は単体で書かれる時と子音と組み合わせられる時とで形が変わる。ヒンディー語のデーヴァナーガリー文字と似て上部に一本線が引かれることが多いけれど、必ずしもそうとは限らない。よって単語ごとに線で繋げることはない。
余談だがこのデーヴァナーガリー文字の上部に現れる”地平線”について、”インドが堅い赤土の大地に根ざした宗教観・文明を築いてきたからだ”と砂に文字を書くアラビア語と比較して解説されているのを読んだことがある。国語の教科書に載っていた随筆(評論だったかも?)の一節で詳細はうろ覚えだが、本当なんだろうか。
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スマホのキーボードだとこんな感じの入力になる。
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母音と子音の一部について、往路の機内でドリル形式で練習してみた。
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やってみて気づいたのだが、普段使う日本語や英語とは随分勝手がちがう。左から右へ流れる(→方向に読む)点は同じでも、筆先の動きが文字の流れと逆方向(←)になったり、垂線を↓方向に引く文字と↑方向に書く文字があったりする。
漢字だと垂線は↓が基本だし「く」型の上部は「ノ」の要領で凹ませる。
細かい点だと「く」の形の肩を膨らませる様に書いたり(ক やর)。
書き順をなぞってもどうも見本と異なってしまったのだが、日本語でいう明朝体のトメ、ハネ、ハライにあたる部分に注目して力の強弱を真似ると上手くいくことに気がついた。リズムよく繰り返し書いていくと、不自然に思えた↑方向の動きにも必然性があることがわかる。小学生のころは鉛筆ではとうてい表現できない明朝体のドリルをなぞらされるのが大嫌いだったのだが、二十年経って思わぬところでありがたみが分かった。
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インクだまりっぽい「トメ」や勢いのある「ハライ」のグルーブに乗ってリズミカルに書くと
いい塩梅になる。
しかし最後まで慣れなかったのは母音と子音の組み合わせ順。
漢字だと左に「へん」、右に「つくり」が基本だし、英語も発音通り子音+母音の順に書く。普段は意識していなかったが、「へん」や子音でまず大まかな意味や音を表して、「つくり」や母音でニュアンスを付け加えるイメージを持っていた。
しかしベンガル文字では"i"の音( ে ) や"o"の音( ো )を含む文字で「つくり」扱いの母音を先に書き始めないといけない。ベンガル習熟者の頭の中では、やはりローマ字様のパーツの組み合わせではなく個別の文字全体を型としてイメージしているのだろうか。
ベンガル文字は美しい
ベンガル州滞在中はコルカタ近郊のナイハティNaihatiに住む夫婦にお世話になったのだが、お父さんに先の書き順問題について聞いてみたところ「いいからとりあえずこの本で練習するんだ!」と小学生向けの本物のベンガル語ドリルを買ってもらった。
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着いた日にナイハティではちょうど地域のお祭り(といっても一週間続く大規模なもの)が開かれていて、行ってみると本の出店がずらりと並ぶ一画があった。ベンガル語の優雅な形が気に入ってしまい、「この本は君には難しいかもよ」と言われつつ装丁の美しさで選んだ本を買った。また、ベンガル人によるベンガル人のためのベンガル料理のレシピを仕入れるべく、勉強のモチベアップをかねてレシピ本も購入。まずは一品ぶん解読して作ってみるのを目標にしている。
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"অনুগল্প ও কিঞ্চিদধিক" Google翻訳によると "A few stories"。短編集らしい。
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ベンガル語台所用語集
到着した日の昼食からさっそく滞在先のお母さんにひっついて料理をならい、市場に行くとなればお店の人とのやりとりに目と耳を総動員した。数字と名詞が聞き取れるだけでかなり楽しい。読み書きも大事だけど、初学のブーストにはやはり会話で繰り返す音をなぞるのがいちばん良い。結局単語レベル止まりだったけど、一週間足らずで覚えたベンガル語をメモ(一部ヒンディーかも。おいおい修正します。)
日本語 / ベンガル(読み)
シナモン / daarchini
クミン / jeera
カルダモン / elaichi
クローブ / loo?
マスタード / shorche
ポピーシード / poshto
ターメリック / halwa
ニゲラ / karonji
コリアンダー(種,スパイス) / danya
コリアンダー(生の葉っぱ) / danya pattha
ベイリーフ / teji pattha
青唐辛子 / mirchi
赤唐辛子 / lal mirchi
黒胡椒 / kalo mirchi
魚 / maarch
ヨーグルト / doi
チャイ / cha
ミルクなしの紅茶 / lika cha / kalo cha
ブラックソルト / kalo noon
年長者への呼びかけ(男性) / dada
年長者への呼びかけ(女性) / didi
ことのほか役立ったのが年長者への呼びかけ、dada / didiだった。慌ただしい市場の喧騒では外国人の”Excuse me”は聞いてもらえない。しかし”Dada!”と呼べばおじさん達に振り返ってもらえる。そしたらそのまま視線を逸らさず、欲しいものを指さして数字を伝えればひとまずok。
ベンガルのエリート小学生達に学ぶ
ベンガル語は母音が11種類、子音が32種類もあるので全パターン覚えるのはなかなか骨が折れる。しかもそれぞれの発音の差異は日本人の耳にはかなり分かりにくい。ベンガル滞在の後半はよく喋る9歳男児を連れた別の一家とも合流し、子供ながらベンガル語と英語を達者に操る様子に圧倒された。彼は日本のアニメをネトフリの英語字幕でよく見ているらしく、定番のNARUTOやデスノートにとどまらず ぐでたま の話なんかもしてきて私よりよっぽど詳しい。「お前はもう死んでいる」を例文に発音や意味を教えたりして、代わりにベンガル語の発音をご指導いただいた。滞在先の夫婦は褒めて伸ばすタイプだったのだが子供は容赦なく、Dal(豆、または豆のカレー)の発音だけで15分くらいやらされた。
この家族とは年越しをプルリアPuruliaという山間の地域で過ごした。市街地は観光地っぽいのだが、森を抜けると小さな集落やロッジが点々とするのみの静かな土地。滞在先のロッジでもコルカタから来ているという9歳〜12歳くらいの上品な女の子達が懐いてくれた。やはり子供にとって東アジア人は珍しいのと、恐らく韓国アイドルの台頭と無いものねだりの為にあっさりした顔の印象がかなり良いらしく、胸がキュンとするようなキュートなお手紙をくれた。彫りが深くマスカラは一生要らなさそうな貴女達の方がよっぽど…と思うのだけど。
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当地でもギャル文字的な文化があるらしく、英語もベンガル語もくるくるしていてこれまたかわいい。私のノートにも流れる様な手つきで単語や名前を書いてくれて、書き順に関する幾つかの疑問が解消された。この子達もネトフリで日本の恋愛ドラマや青春映画を観ているらしく妙に日本の現代に詳しい。アフリカなどだといまだに忍者などのステレオタイプが根強いので若い感覚が新鮮だった。
ベンガル語後記
さて上記文章をiPhoneのメモに徒然なるまま打っていたのは早一ヶ月前。日本に帰ってきてからはバタバタしていてベンガル語どころではなくなってしまった。そんなもんだよなと思いつつかなしい。英語ですら何年もかけて習得したことを思うとマスターはかなり非現実的だけど、あたらしい言語に触れることで言葉や文字について意識するきっかけになって楽しかった。
町中で見かけた " চা " だけは心の潤いとして覚えておきたい。
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2022-23の年越しインドの旅をトピックや地域ごとにまとめておきたいと思っている。行く先々で習ったレシピも載せる予定。