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石川が好きすぎるイマーシブシアター団体「ego:pression」

2019年から2020年にかけて、石川は初めてイマーシブシアターに参加し始めていました。
その中でも石川が最初に夢中になったイマーシブシアター作品がego:pressionの『スパイは3度、ベルを鳴らす』でした。その当時の興奮はnoteに書いています。

それ以降、ego:pressionの公演は欠かさず参加し、その期待を裏切られたことはありません。新しい公演情報が出れば福岡→東京の距離などものともせずに最優先で参加します。前回公演の『鳳明館物語』はのべ8回も参加してみんなから呆れられました。
本稿ではどうして石川はそんなにego:pression作品が好きなのか、自分の気持ちの分析を兼ねて考えてみたいと思います。

※見出し画像はego:pression様に許可を頂いて最新作『MISSION8-REVIVAL-』のメインビジュアルの一部を使わせていただいています


理解しやすい物語構造

ego:pression作品の物語はおおむね以下の構造で作られています。

ego:pression作品の基本物語構造

メインとなるストーリーがまず大きな課題の発生とその解決という形で進む。そのメインの問題に関連する形で各キャラクターにも課題が発生し、物語の中で解決していく。

構造としてはとてもシンプルです。
しかし、わかりやすい物語だからといって、よくある安易な物語にはなっていない。あくまでも何が起こったか、どうなったかが観客が理解しやすいだけであって、物語の深みはきちんと作られている。
この分かりやすさの向こうにある奥の深さが、ego:pression作品の最大の魅力ではないかと思います。

メインストーリーは全員集合するようなシーンを適時入れることで何が起こっているか、どのような結果になったかが参加者全体できちんと共有できるようになっています。
この形式によって、誰もがメインストーリーを理解できた上で、個々のキャラクターのエピソードを、それぞれの好みで安心して追いかけることができるのです。

例えば、みんなが大切なアイテムを探しているというメインストーリーの提示が明確になっていれば、それをAさんが持ってきても(どのように見つけたか分からなくても)メインの物語の流れは理解できます。そしてAさんを追いかけていた人はその背景や真相も知ることができるのです。

物語断片化のさじ加減

そんなことイマーシブシアターでは当たり前ではないかという人がいるかもしれません。でも、そのバランスがうまくできていない作品はけっこうあるのです。
イマーシブシアターで自由にキャストを追うことができるというのは、物語が断片化するということです。そして、断片化された物語を観客が組み立て直す必要があるということです。

しかし、この作業が多すぎると、頭の中がそれでいっぱいになってしまったり、再構築が追いつかなくなって、眼の前で起きているお芝居に集中できなくなってしまいます。
特にメインストーリーそのものがうまく伝わっていないと、基本的な物語と個々のエピソードが結びつかなくなってしまい、その負荷は増大します。

さきほどの例でいえば、みんながあるアイテムを探しているという共通認識がなければ、Aさんがそのアイテムをもってきてもなぜみんな喜んでいるのかの方が気になってしまって、Aさんの行動などに意識が向かなくなってしまうのです。

ego:pression作品はこの「見せること」と「想像すること」のバランスが絶妙です。大きな幹であるメインストーリーをきちんと見せて観客が把握できるからこそ、細部に注意を向けることができるし、自分が見ていない内容について想像を働かせることができるのです。

また、ego:pression作品には気づくとびっくりする大きな仕掛けが仕込まれているものも多いです。この仕掛けの気づかせ方は初期作品の中には分かりにくいものもあったのですが、公演ごとにどんどん進化していき、いまでは絶妙なバランスで参加者が物語の秘密を自分で見つけたような気になるように作られています。
そしてその視点で今までの物語を振り返ると、見え方が変わるシーンが出てきて、もう一度そのシーンを見たくなる。こうして同じ公演に何度も参加する石川の出来上がりです(笑)

セリフのないダンス形式

ego:pression作品はセリフで進んでいく一般的な演劇形式ではなく、ダンス形式で行われ、キャストのセリフは基本的にありません。日本のイマーシブシアターに強い影響を与えた『Sleep No More』が基本この形式のためか、ego:pression以外にもDAZZLEやdaisydozeなどいくつかの団体はダンス主体のイマーシブシアターを開催しています。

ダンス形式のイマーシブシアターには長所と短所があると思います。
長所としてはダンスという視覚的に派手なパフォーマンスと、音楽という聴覚の心地よさが組み合わさって表現の幅が広がること。
短所としては情報の伝達に台詞が使えないため、時として何が起こっているのか伝えにくくなるということ。

ego:pression作品では短所をうまく抑えながら長所をうまく活かしているなと感じます。
まずシーンごとに見せたい内容がきちんと精査されている上にダンスのクオリティが高いため、セリフがなくてもそのシーンで何が起きているかが伝わりやすい。

更にダンスの曲のセレクトがすばらしい。知らない歌であっても、歌詞や雰囲気がそのシーンの内容をうまく表現していて、曲がダンスとの相乗効果で盛り上げてくれるのです。
おかげで石川はego:pression作品の公演があるごとに頭の中で歌のフレーズを必死に覚えて、Apple Musicなどで原曲を探し、その曲を聞きながら公演を思い返すというムーブをするようになってしまいました。
ちなみに『鳳明館物語』は参加者に付箋メモ帳が配られたおかげで歌詞やフレーズの断片をメモでき、かつてないほど曲を特定できました(笑)

前向きな物語とカーテンコール

ego:pression作品は(今のところ)すべてハッピーエンド的な終わり方をします。
正確には上で述べた「大きな課題を乗り越えて終わる」形なので、その課題を乗り越える上で個々の悲しい物語やほろ苦いエピソードを含む場合はあります。ただ、課題を乗り越えて登場人物たちが前向きに進もうとする、その形は変わりません。

そして、その形式はカーテンコールとのつながりに大きな影響を与えています。イマーシブシアターでカーテンコールがない作品はけっこう多いですが、ego:pression作品には今のところすべてカーテンコールがあります。
スタッフロールが投影され、それに合わせてそれぞれのキャストが登場して参加者に最後のダンスを披露してくれる。
ここで前向きに終わる物語が意味をもってきます。「よかった」という気持ちが、そのまま演者への自然な拍手に繋がるのです。物語の感動をカーテンコールの拍手に込めてキャストに伝えたくなる。そして、参加者はその盛り上がりと共に会場を後にすることができるのです。

読んでほしいもう1つの分析

さてここまでいろいろとego:pression作品の良さを書いてきましたが、もう1つ読んでもらいたい記事があります。
NOVAKさんの「イマーシブシアターの構造比較」というnote記事で、ここではego:pression作品のうち『リメンバー・ユー』と『RANDOM18』を取り上げ、他団体の作品とあわせてどのような構造になっているか比較分析した力作です。
イマーシブシアターと一言でいってもいろいろな構造があり、同じego:pression作品の中での違いもしっかり分析されている記事なので、ぜひ読んでみてください。

『MISSION8-REVIVAL-』が開催されます

そんなego:pression作品の最新作『MISSION8-REVIVAL-』が2024年11月23日~12月15日の各週末に開催されます。

ego:pression作品初のリバイバル上演です。
(『新スパイは3度、ベルを鳴らす』は『スパイは3度、ベルを鳴らす』と同じ世界観の別作品と考えているのでカウントせず)

『MISSION8』はego:pression作品の中でも、もっとも小さな会場で行われたイマーシブシアターです。
しかし、その小ささがマイナスではなく、むしろ「他のキャストが何かをやっているのは見えるが具体的に何をやっているかはわからない」=うっすらと状況は把握できるので、想像をほどよく刺激してくれるバランスの良さにつながっています。
そして会場施設の場所と構造が絶妙に物語とマッチしていて、開演と終演の演出に深みを与えています。

そして言うまでもない物語の良さ。目覚めたロボットたちの個性と、彼らが課題を乗り越えようとする物語にガツンとやられてしまいました。
石川は都合4回参加したのですが、回を追うごとにもう感情が溢れてきて、4回目は幕が上がった時点でもう涙が滲んでしまう始末。それくらいおすすめの作品です。ぜひ参加ください。(石川もまた4回参加予定です)


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