“世界観” と呼ばれるものたちへ、あるいは「芸人のボケを抽象化したもの展」の感想
ふるやいなや・日本エレキテル連合・熊本アイの3組の芸人(※熊本アイさんは元芸人)による、「芸人のボケを抽象化したもの展」。
この記事では、原宿デザインフェスタギャラリーで2月17日〜23日まで開催された展示の模様と、2014年から日本エレキテル連合を応援しつづけているファン目線の感想をお届けします。
異色のコラボレーションかと思いきや、それぞれの個性が立ちながらも、緩く交わり合うような空間。
こういう作品たちを見たときに「世界観」という表現で片付けたくなるけれど、それは逃げなんだろうなあ、と思った。だから、なるべくちゃんと言語化するために、書き残すことにしました。
不気味さと愛おしさ
今回の日本エレキテル連合による展示物の多くは、3Dアートペン(プラスチックや樹脂を瞬時に固めることで、立体をつくることができるペン)で制作されたもの。
会場の隅には立体になる前の溶解プラスチックが無造作に積まれていて、在廊しているご本人自ら、今回の作品に用いられている技法を実演してくれることもありました。
彼女たちの作品のほとんどは、不思議な形と色をした物体。会場のあちこちで、手も足もない、ただ内側から光る体からぼこぼこと飛び出た眼球が、こちらをじっと見つめてきます。
天井から吊り下げられてくるくると回転する眼、横たわる眼、歩くたびに足下から見上げてくる眼。ともすると嫌悪感を抱くかもしれないそれらを見つめ返していると、だんだん愛おしく思えてくるのがおかしかった。
持ち上げてみると光源が少しあたたかくて、かわいい。
こんなに、気持ち悪いのに。
これらの作品は実は、2014年の流行語大賞「ダメよ〜ダメダメ」で一世を風靡した「細貝さんと朱美ちゃん」や、エセ関西弁を話す男女のカップル「ケンとクミ」をはじめ、日本エレキテル連合の代表的なコントを「抽象化」したもの。
ひとつずつにタイトルが付いているわけではないので、どのコントやキャラクターがモチーフになっているのか想像しながら、もしくはご本人に尋ねながら、見るのが楽しかったです。
ただ立体作品として鑑賞するだけでも面白いけれど、モチーフとなったものを知っているからこそ、そこに魂が浮かんでいるように見えて、さらに奥行きを感じました。
主役は影
中野さんは自身のInstagramで、「今回の展示物の多くは影こそを主役にしてるのです」と語っていました。そのメッセージを受けて、昼間だけでなく、空が暗くなった時間帯にも足を運んでみることに。
夜。立体ひとつひとつに光源が仕込まれているので、影は色をまとったような不思議な印象になります。同じものでも別の角度から見つめると、光り方や影の生まれ方が変わり、まったく違うように映りました。
照明を落とした空間で浮かび上がる色を眺めていると、同行してくれたファンの友人が『ベトナムランタン※ を思い出す』とひとこと。
※2015年の単独公演「死電区間」で使われたモチーフ
こうしてひとつの作品から過去の作品を想起できるのは、きっと彼女たちがこれまでに発表してきた作品のアーカイブがたくさんあるから。中野さんは『光るものが好きなのかもしれない』と答えていましたが、これからもこうして、好きなものの発露を見つづけられたら幸せです。
「くらやみではこのように光ります。」
会場の照明は調光式で、光を調節することで少しずつ違う表情を見ることができました。
壁に貼り出されている写真でもその様子を知ることはできるのですが、実際に明暗を切り替えながら見てみると、立ち上がってくる幻想的な美しさに目を奪われました。
真っ暗にした状態で接写した作品の一部は、こんな感じ。
インスタレーションとして
今回は3組合同の展示会でしたが、空間全体に不思議な一体感があり、インスタレーションとして楽しむことができました。
前述したように3Dペンを実際に使う場面を見ることができたり、お客さんが参加できるような展示もあったりと、数帖ほどの空間を余すところなく効果的に使われていた印象があります。
日本エレキテル連合は、以前にも小劇場を会場に、衣裳や小道具などの作品を展示する「電気画廊」というイベントを開催したことがありました。
普段は客席から、もしくは画面を通して舞台を見つめるばかりですが、こうして制作の裏側について聞くことができたり、より手触りのある形で作品を鑑賞したりできることは、ファンにとっては心からうれしく、また彼女たちのスタイルとも相性がいいような気がしました。
今回みたいに、空間ごと体験できる展示のような機会がまた訪れることを、すでに心待ちにしています。
おわりに
日本エレキテル連合のコント(特に単独公演で披露されるもの)には、いわゆる『考察したい!』という欲望を呼び起こすものが多く、あれこれと考えながら見てしまう自分が嫌になり、あれこれと考えずにただ笑うことにした瞬間がありました。
彼女たちは「お笑い芸人」と名乗っているのに、深く考えるような楽しみ方をするのは失礼なのではないか。それこそ「世界観」と表現する程度に留めて、『面白くて好きなんだよね。世界観も独特でいいし』くらいに思っていたほうがいいのではないか、と。
ただ、日本エレキテル連合は、お腹を抱えて爆笑するものだけが「面白い」わけではないということを教えてくれました(ここで言いたいのは、彼女たちのネタではお腹を抱えて爆笑できない、ということではありません)。
私は、何も考えずに笑えるお笑いも好きです。でも、あのとき彼女たちに出会って、Youtubeの公式チャンネルの動画をすべて再生し終えたあと、月に何度も劇場へ足を運びながら、胸に刺さったまま一生取れなくなってしまった魚の骨のような彼女たちの面白さを愛しました。
今回の展示で、そんなことを思い出したのです。
日本エレキテル連合は、小道具や衣装、美術などにこだわったネタづくりをすることで知られています。また、2014年から毎年開催している単独公演では、自分たちの手で創り上げた作品をモチーフにすることもあります。
「世界観」と呼ばれるものの裏には、作り手の膨大な時間があり、想いがあり、人生があります。私はこれからも、そういうものを想像して、たとえそれが誤りだったとしても、本当はやっぱり深い意味なんてなくて、ただ手を動かすことから生まれたものなのだとしても、面白さに抗うことができないんだろうなあ、と思います。
せめて、そこにあるものをしっかりと見るために、曇りない眼でいたいと思いました。
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