生産的な日記

おれは家で何か生産的なことをするのが非常に苦手なタイプの人間である。何もできない。何も書けない。何も作れない。おれが家にいるとき生産しているのは二酸化炭素と老廃物ぐらいだ。家は何かをする場所ではなく何もしないための場所であるというのがおれの持論である。最近はラップに包んで冷凍しておいたご飯を皿に乗せることすら面倒になり、そのままテーブルに置いてラップを広げて食っている。特に支障はない。食べ終わったらそのまま捨てられるし、むしろ洗い物が減って快適である。そんなおれが何か作業をしようと思ったら家の外に出る必要がある。喫茶店であったり友人宅であったり、とにかく家ではないどこかに腰を落ち着けねば何もできない。ところが最近の世の中は、誰も家から出てはならぬと仰せだ。仕事や買い物以外の用事で家から一歩でも出ようものならサイレンが鳴り、警戒灯が廻り出し、卵を投げつけられ、一族郎党市中引き回しの上打ち首獄門にかけられ、屍は野に晒されて鳥に啄まれるだろう。そういうわけで仕事にも買い物にも行かないタイプの人間であるおれは家から出られず、したがって何もできず、書かねばならないものが山のように積もっている。塵も積もれば山となるとはよく言ったもので、塵が山になるまでぼけーっと眺めていたのは他ならぬおれ自身なのだが、これはどうにかせねばならない。書かなければ人生設計が大幅に狂い、敷かれたレールの上から転落してしまう類の文章、またの名を論文である。〆切はウサギの速度とカメの持続力を併せ持ち、着々と迫ってきている。放っておくわけにはいかぬ。さりとて家では進まぬ。困った挙句、別に急ぐわけでもなく誰かが読むわけでもなく特に有意義でもない文(つまりこれのことだ)を書き始めてしまった。ここまで書いたところで割と生産的なことをしたような気分になり、満足して筆を置いた。明日の朝目覚めたら毒虫ならぬ生産的な人間に生まれ変わっていることを期待して、今日はもう寝ることにする。

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