2019年・振り返り

今年が終わろうとしている。

大学一年生のときは「小説家になろう」で連載していて、毎日四千字ぐらいずつ書いて投稿したりしてた時期もあった。それが今や、〆切前だけうんうん唸ってなんか変なのを捻り出すだけの日々。部誌への投稿も、部外のアンソロジーに寄稿したものを手直しして載せるばかりになりつつある。あの頃の溢れんばかりのエネルギーというか意欲というか、そういうものはすっかり絞り尽くしてしまったみたいだ。
とか言ってるけど、実を言うとそれなりに書いている。今年書いたもので言うと、寄稿先は文芸部追い出し追い出され号、アンソロジー光、明治×涙アンソロジー、文芸部学祭号、自炊学、文系理系アンソロジー。あとは短歌を少々、といった具合だ。だから七千字〜三万字程度の短編を六つぐらい? 何も書いてない、と言うにはいささか多い。せっかくだから順に見ていこう。

まず、追い出し追い出され号。
この珍妙な名前の部誌は、文芸部で代の変わり目に刊行される「追い出し号」の〆切を守れなかった人々――つまり追い出し号から追い出された人々――が、二冊目の追い出し号として製作したものだ。
そこに寄稿したということは、つまり僕も追い出し号の〆切を守れなかったということで……そして、一度〆切を破った者は、二度目の〆切も破るわけで……そういうわけだから、僕はしっかりと追い出し追い出され号の〆切も破った。
そして、一度は「すみません原稿出せません」とまで宣言した。実際、〆切が過ぎても書き終わらなかった。これは割と初めての事態で、今まではなんとか間に合わせることに成功していたのだ。十二冊にわたって続けてきた部誌への連続投稿も打ち止めになってしまった。
しかし原稿を諦めて数日後、イギリスへの卒業旅行の出発前日……突如「書けるのでは?」という何の根拠もない創作意欲がコーラにメントスを入れたみたいに噴出してきた。
そして書いた。僕は書いた。一晩で一万字ぐらい書いた気がする。気づけば朝になり、フライトの時刻が迫ってきていた。僕は書き上げたばかりの原稿を推敲する暇もなく、そのまま後書きという名の懺悔までを一息で生み出し、編集のな゛にメールで送りつけた。
「まだ間に合うならよろしく頼む。誤字脱字や変な箇所を見つけたらおれの許可を取らずに勝手に修正しといてくれて構わない」とかいうふざけた文面とともに。
そして朝の八時、僕は日本を経った。それから九時間、辿り着いたロンドン・ヒースロー空港で、僕は自分の原稿がギリギリ受理されたことを知った。
そういうわけで僕の『Y.O.L.O.』は無事(無事か?)追い出し追い出され号に載っている。自分で言うのも何だけど力作だ。入部したときから密かに抱いていた、いつかキャンパスが巨大ロボットに変形して戦う小説を書きたい、という願いも叶った。なんてしょうもない願いだろうか。
だけど、これでいい。「狼と香辛料」でロレンスも言っていた。ささやかな夢を追い続けることは幸せですね、と。

次に、アンソロジー光。
去年のアンソロジー空に引き続き、参加させていただけることになった。主宰の綿津見様の企画はなんというか完成度が高いの一言で、六十人超の参加者をまとめ上げて本を作ってしまうその手腕にはいつも感服させられる。
かつて作った初手失恋アンソロジーのときは参加者が身内だったりそもそも八人ぐらいだったりしたし、編集はな゛にぶん投げていたので、僕でもなんとか取りまとめができた。これを一人で、さらに八倍の人数になると考えると、正直その苦労は計り知れない。どうもありがとうございました。
寄稿した『ストレイライト・リバース』はいつも通り人類が滅びたあとの世界を描くSFだ。僕は人類を都合よく滅ぼすので、建物や食糧なんかはしっかり残っている。便利だ。リアリティ? だまらっしゃい、そんなものを重視するならまず人類は滅ぼしません。
今回のは自分でも気に入っていて、なんというか、グルグルさせたいと思って書いたら、ちゃんとグルグルになった。読んだ方がみんなエモいって言ってくださるので嬉しい。僕も書きながら「エモいな……」と思っていたような気がする。あんまりこの単語に頼るのはよくないと思うけれど、エモいものはエモいので仕方ない。

次に、明治×涙アンソロジー。
「今宵、キミを想ひ涙する。」というロマンチックなタイトルの本アンソロジーは、Twitterで親交のあった月瀬様に誘っていただいて寄稿する運びとなった。明治×涙、そしてタイトル、これは甘々な恋愛ものの予感……とか思っていたが、どこで道を間違えたのか、書き上げてみれば和製ホラー・アクションである。
失踪した父親を探す少女、町外れの幽霊屋敷に住む謎の男……人魚の涙を巡る一連の事件を描いた『夕闇相談所 〜人魚の涙〜』は我ながらよく書けたと思う作品のひとつになった。イメージしたのはジャンプに載っている読み切り作品だ。大きな設定、小さな事件、ひとまず解決、これからへの期待を込めた終わり方。読み切り作品の作り方はめちゃめちゃ短編の参考になる。今後もこんな感じのを書けたらいいな。
割と陰惨な感じの世界観になっちゃって、アンソロの和(?)を乱してしまうかと心配していたけど、いざ発行されて手に取ってみれば実に多種多様な短編揃い。特に浮いてもなかったので、ほっと胸を撫で下ろした。ただし文字数はぶっちぎり二万五千字。大変申し訳ありませんでした。

学祭号。
文芸部2019学祭号「金星」への寄稿に、さすがに過去作を使い回すことはできなかった。学祭号は学祭で一般の参加者にも販売するものだから、どこかに発表済みの作品はなるべく避けたほうが無難なのです。
そういうわけで、以前に途中まで書いて筆が止まっていた『交合衛星』の執筆を再開し、なんとか書き上げた。やれやれ。
銀河ヒッチハイク・ガイドみたいなギャグSFを書こうとして結果として下ネタ多めになり、「これは学祭号に載せてよいものでしょうか」と校閲してくれた方から思い切り心配してる感じのメッセージが届いていた。結局そのまま載せちゃって申し訳ないです。 でも僕のやつが駄目なら某村くんの小説はもっと駄目だと思うんだ……部内で部誌に載せられるギリギリのラインを協議して決めるのも面白そうですね。外れたやつは部誌(R-18)を創刊してそこに載せよう。

そして自炊学IV+D。
今回出したのが4冊目にして完結編、つまり最後の自炊学になる。割と気合を入れたつもりが、〆切を破りに破り、本当の〆切を見極めた結果、本当の〆切に間に合わず人生初の割増入稿をかました。アホちゃうか?
遅れた理由は単純に思いつかなかったから。難産だった。自炊について書けることなんてI+Aで搾り尽くしてしまっていたので(なにしろ僕は私生活で自炊をしない)、あとはもうよくわからないものをよくわからないままに書き連ねる必要があった。いやあ大変だった。
今回は自炊学IV+D、つまり4d、4dといえば四次元、ということで自炊学と四次元に関する知見を合体させ、四次元自炊学なる学問を生み出した。四次元自炊学とは何か、なんて聞かれても僕には答えられない。自炊学を読んでくれ、と言えればいいのだけど、残念ながらそれもできない。たぶん自炊学を読んでも何もわからないからだ。何もわからないということだけがわかるだろう。ただ、何もわからないことがわかった時点で何もわからないというのは真でなくなるので、つまりは自炊学を読むことで新たな知見が得られるということになる。これは素晴らしい。読むべきだ。読みなさい。読め。

それから、文系理系アンソロジー。
これは自分が理系だからこそ書けると思う小説、というステキな縛りのアンソロジーである。自分は本当に理系か? と常々悩んでいた僕は、自分を見つめ直すいい機会だとばかりに申し込み、そして寄稿させていただけることになった。
理系と文系を分けることに意味があるとは思えないままとりあえず理系に進み、いやミスったな……と思い続けて幾星霜、とうとう大学院まで来てしまった僕だけど、果たして理系とは何だろうという問いに答えられない。自分は理系ではないと思っている。だけど、じゃあ文系かと言われたらそれも違う気がする。どこまでいっても中途半端だ。
そんな中でなんとか自分なりの答えを示そうとしたのが寄稿した『トランスルーセント』になる。意味は "半透明" だ。
いろいろ新しいことに挑戦した作品でもある。具体的に言えばハッピーエンドではない百合だ。百合も書いたことない、ハッピーエンド以外もほぼ書いたことない、と初めて尽くしで楽しかった。来春の発刊をお楽しみに。

短編についてはこんな感じです。長編はゼロ。三つか四つぐらい、設定を練って登場人物まで考えたやつがあるけど、書き始めるのがなんでこんなに難しいんだろうなあ。来年こそは長編も書きたいね。

あとは短歌。
これは思いついたときちょいちょい呟くぐらいで、どこかにまとめて発表したりしているわけでもない。発表するほどたくさん詠んでないし、あとはフォロワーさんとか後輩さんにすごく素敵な歌を詠む人がいるので自分の歌を見てもなんだか微妙に思えちゃう、ってのも理由のひとつ。
まあでもそれなりに溜まってきたので、部誌に出すことにした。出します。今度の追い出し号、三十首ぐらいの短歌集になる予定です。
これまでに詠んでTwitterで呟いたものにいくつか新しく書き下ろして、なんとかまとまりのある歌集になるようにしようと試みているけど、無駄な努力かもしれない。タイトルは『君と歌』だけど、これも変わるかもしれない。まあ〆切まであと二週間あるし大丈夫でしょう(慢心)。頑張って完成させます。

そんな感じの2019年でした。
あとはちょこ文福岡に一般参加し、文フリ福岡に出て、ちょうど東京に行ったついでに東京文フリと東京コミティアに初参加して……と、けっこうイベントも充実してました。お話ししてくださった皆様、ありがとうございました。
来年も可能な限りイベントには出たい。とりあえず文フリ福岡には申し込みたい。福岡に住んでるのに多少修論が忙しい程度で出ないのは甘えだと思うのでね(来年の自分を煽っていくスタイル)。

改めまして、今年もお世話になりました。
来年もよろしくお願いします。
それでは、良いお年を。

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