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「ネイティヴ感覚文法学習」で英語力は伸びるのか?

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 みなさん、ごきげんよう。

 今回は「ネイティヴ感覚文法学習」で英語力は伸びるのか?について考えてみたいと思います。

 そもそも英語力、特に英会話力の習得のために英文法学習は必要かどうかという議論がありますが、私は英会話力習得のために英文法学習は必要だと考えています。その理由はこちらの記事をご覧ください。

 この記事では「英文法学習は必要」という観点に立って考えてみたいと思います。

 英文法の学習方法としてここ15年ほど注目を集めているのが「ネイティヴ感覚」を踏まえて英文法を学ぶという手法です。この火付け役は東洋学園大学教授・大西泰斗先生だと思います。2005年にNHKで放送された『ハートで感じる英文法』は私個人としてもかなり影響を受けました。

 大西先生には数々のご著書がありますが、研究社から出版されている『ネイティヴスピーカーシリーズ』はかなりおススメです。

 しかし我々ノンネイティヴはネイティヴとまったく同じ感覚で英文法を習得することはできるのでしょうか?さっそく考えてみることにしましょう。

1.従来の文法学習法は否定されるべきか?

 従来の英文法学習方法は否定されるべきでしょうか?このことについて考える前に、従来の英文法学習方法がどんなものなのか見ておきたいと思います。ここでは不定詞を例に挙げてみます。

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 だいたいこんな板書や基本例文が紹介されるのではないでしょうか。「~すること」と訳せたら名詞的用法ですよ、「~するための」とか「~すべき」と訳すのが形容詞的用法ですよ。私も学校でそのように教えられました。

 この指導法はさすがに古典的すぎて、また英語の本質的な説明にもなっていませんが、用法を分類するという点には一定の意義があると私は思います。

 ネイティヴにとって「to+V」は「to+V」でしかなく、彼らは名詞的用法だの形容詞的用法だの考えているわけではありません。ちょうど私たちが日本語の「の」という助詞を使うときに、「いまは『連体格』の『の』、これは『連用格』の『の』!」などと考えないのと同じことです。

 この観点に立って「英文法学習は不要!」という人もいますが、私はそうは思いません。そもそも私たちはネイティヴではないのですから、ネイティヴと同じように英語を習得するのは無理があります(早期教育を受け、第一言語形成期の間に英語を習得するなら話は別ですが)。

 「分類する」ということは整理して理解するということですから、従来型の英文法学習には一定の意義があると言っていいでしょう。一概に否定されるべきではないと私は考えています。

2.日本語「訳」から英語を学ぶのは考えもの

 用法を分類するのは良いとして、日本語「訳」から英語を学ぼうとするのは考えものです。そもそも英語は日本語をもとに作られた言語ではないのですから、「日本語でこう訳せるから英語はこうなる!」という学習法は、学習の最初期段階ではやむを得ないこともあるでしょうが、できるだけ早く卒業すべきだと思います。

 英語をご指導しているとときどきあるのですが、「彼は売り上げを改善するためにスタッフたちを鼓舞した」と言おうとして"He motivated his staffs due to improve the sales."などという英語を作ってしまう方がいます。

 due toのtoが不定詞ではなく前置詞という認識がないということもさることながら、「due to」を「~のために」という日本語「訳」だけで把握してしまっているのです。よってこのような間違いをしてしまっているのです。

3.大切なのは「概念」を把握すること

 このように日本語「訳」だけで英語を学ぶのは、とんちんかんな間違いをする原因ともなりますし、そもそも「訳」などというものは意訳すればどうにでもなってしまいます。

 大切なのは「概念」を把握することです。それぞれの文法や表現が何を伝えたいときに使うものなのか、それを押さえておくことが大切なのです。

 先ほどの例でいえば「due to」は「原因」を述べたいときに使う表現です。言い換えれば「due to」の概念は「原因」だということです。一方「彼は売り上げを改善するためにスタッフたちを鼓舞した」という文が伝えようとしているのは「目的」です。スタッフたちを鼓舞した「目的」と伝えようとしているのですから「due to」の出番はありません。

 「目的」を伝えたいのですから「(in order) to V」「so that S V」などを使うべきところです。ところが「in order to V」は「~するために」と日本語「訳」だけで覚えている人は「売り上げを改善しようとして」とか「売り上げの改善を目指して」などと日本語を少しいじられただけで途端に英語が出てこなくなってしまいます。一方、「in order to V」は「目的」という捉え方ができている人は、少々日本語が変化したくらいでは動じることがなくなります。

4.ネイティヴ感覚文法学習の意義

 文法事項を分類しながら学習することは効果的ですが、日本語「訳」にだけ頼るのは望ましくない、「概念」を押さえることが大切だというのを一応の結論とした上で、文法学習にネイティヴ感覚を取り入れる意義を考えてみたいと思います。

 ここでも不定詞を例にしてみましょう。前述のとおり不定詞には分類的に3つの用法があります。なかでも厄介なのが副詞的用法で、代表的なものだけでも「目的」「感情の原因」「判断根拠」「条件」「結果」「形容詞の修飾」と6つの概念を持っています。

 私たちはノンネイティヴですからこの6つの概念分類をいったん学んでおくことは大切だと思います。しかしネイティヴにとっては「to V」は「to V」でしかない、というのは前に述べた通りです。

 一見すると全く異なるように見えるこの6つがどうして同じ「to V」で表現されるのか、そこにネイティヴが感じているニュアンスを知ることは、英語の理解と定着を深める上でとても意味のあることです。(この理由はまた別の機会に詳しく説明したいと思います)

 ネイティヴ感覚を理解することで、それまではバラバラに思えた文法事項が、有機的につながり整理されて、会話の上でもその文法の使いどころがより明確に見えてくるようになります。

 一方で、いきなりネイティヴ感覚だけを頼りに文法を理解しようとしてもなかなか難しいのではないでしょうか。繰り返しになりますが、私たちはネイティヴではないので、その感覚を理屈抜きに体に入れようとしても無理があると思われます。

 結論として「まず一度、用法分類という従来の文法学習の良い面を活かしつつ勉強し、そのあとでネイティヴ感覚を加味していく」というのがベストだと思います。この方法をとればより効率的に英語力を伸ばすことができると思います。私たちはノンネイティヴである以上、ノンネイティヴに適する学習方法をとることが何より大切だと言えるでしょう。

5.この記事のまとめ

(1)用法分類という従来の文法学習法には意味があります。
(2)日本語「訳」をもとにするという従来の文法学習には弊害があります。
(3)従来の文法学習の良い面を活かして学んだあとで、ネイティヴ感覚を加味するのがベストと言えます。

 最後まで読んでくださりありがとうございました。
 それではまた。ごきげんよう。

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