今日の一枚/天才の復活
今日の一枚は能美競歩日本選手権20kmのフィニッシュ。富士通の松永大介選手が1時間19分53秒で優勝。1時間20分のオレゴン世界陸上参加標準も突破し、日本代表内定を決めた瞬間。2014年オレゴン世界ジュニアでの圧倒的優勝から8年。オレゴンが天才松永を呼び寄せた。
競歩のフィニッシュシーンはとても静かだ。100mや駅伝のように感情を爆発させてフィニッシュテープを切るようなものではなく、優勝を決めた選手がウィニングウォークのようにやってきて、ゴールテープをぱさっと切って、その場で歩みをとめる。2月に行われた神戸競歩。数多くの選手が強風と暑さにやられ静かに淡々とフィニッシュに入るなか、ひとり「手応え」を感じながらフィニッシュした選手に目がいった。それが4位でフィニッシュした松永大介選手であった。
多くの選手が後半大きく失速するなか、松永選手は後半、「もりもり」と盛り返し、最後まで、しっかり歩ききった。インスタグラムにその手応えを控えめに書き綴った。
例年、能美は強風が吹き、タイムを狙うにはコンディションが毎回厳しい。それゆえ、数多くの有力競歩選手が能美を回避し、35km、20km、どちらも開催されることになった4月の輪島に照準をあわせた。
しかし、この日の能美は気温5度。そして無風。絶好のコンディション。ワンチャン狙うなら今日。まさにそんな朝のように思えた。「今日は松永がオレゴン決めると思うんですよねえ」会場で出会った関係者たちに挨拶がてら話すと、「いやいや、松永くんは練習の一環らしいですよ」「先月も神戸で20km歩いたばかりですしね」と。なかなかにつれない。松永選手も4月の輪島でオレゴン世陸派遣標準を狙うことも名言していた。
しかし、神戸競歩の後半の歩きからは、いい流れが松永選手に来ているような気がしてならなかった。それは松永選手にも「いい流れ」を感じる出来事が、当日の朝にあった。
最初の5kmで、夢も後押しし、「これワンチャンいけるんじゃないか?」と感じたといいます。持ちタイムも良い明治大古賀選手に警告がつき、ペースもさほどあがらない。前半の集団で歩いているときのハイペースの貯金をうまくつかい、一人旅でのタイムトライアルに。
いつしか松永選手の表情から「きつさ」が消えていきます。距離を踏むほどに、歩型はさらに安定し、風格すら漂いはじめるのです。
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