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2024年10月29日今日の一枚

競歩のレースで楽しみにしていることがあって。それは田中競歩軍こと、田中達也選手の歩きを観ること。田中さんとは試合会場で立ち話程度に話すことはあるのだけど、深くは知らない。知ってることといえば、大阪大学の医学部出身のお医者さんということくらいか。これも正確なのかは知らない。

最近は「放送大学」が陸連登録先となっていて、以前の漆黒のウェアに筆文字で「田中競歩軍」と鮮やかに書かれたユニフォームが見れなくなったのが少し寂しい。「軍」とは名乗ってはいるが、他の田中競歩軍人の姿は見たことがないから、「ひとり軍」であるのは間違いない。田中選手は決して速い選手ではない。が、日本選手権に出れるくらいの歩力あるという選手だ。日本の競歩は国際大会でメダルを狙えたり、先日の高畠競歩では世界記録が出るほど、レベルが高いなか、一人黙々と歩きつづける、ずんぐりむっくりな体型の田中選手の姿をドン・キホーテと重ねてしまう。ひとり、世界のエリート選手らに戦いを挑みつづける姿は騎士のような見えてくるから不思議だ。

ずっと戦い続けていることで、日本選手権における田中選手のゼッケンはいつしか「ひとけた」になった。競歩のスタート位置はゼッケン順である。田中選手は最前列スタートが許される選手にいつしかなっていた。

レース中、普段は無口な田中さんなのだけど、レース中は途端に雄弁となる。コース上の筆者にポーズをとりながら、いまのお気持ちを大声で叫ぶ。「今日は調子がいいですよ!」とか。「ここから本気を出していきますよ!」その都度、カメラを向けて「いいねー!」「そうだ。ここからだ!」とか応えながらシャッターを切っていく。競歩コースというランウェイを歩く田中さんとのフォトセッションをやっているうちに、いつしか田中さんのファンとなってしまった。レースを終えると田中さんはカラータイマーが切れたかのような、いつもの無口な田中さんに戻る。競歩のレース中に変身し、レースを終えると一般人に身を隠すスーパーヒーローみたいなものかもしれない。

田中さんのファンは筆者だけではない、東洋大学の酒井俊幸監督も田中競歩軍の姿に魅せられたひとりだ。ある年の輪島競歩の早朝。コースチェックに酒井監督が出向くと、誰もいないはずのコースで、コロコロを転がしながら距離計測する田中選手の姿に出くわしたという。「うわっ!この選手はGPSウォッチをあてにしないんだ!」とある種の感動を覚えた酒井監督は思わず声をかけたのだという。「話しかけたら、そっけないんですよね」その塩対応を苦笑しながら話しかけてくれた。競歩会場で酒井監督とあったときは天気の話をするかのように「今日の田中競歩軍」という話題が挨拶がわりとなっている。いまのところファンを公言するのはこの二人だけなのだが笑

今日の一枚は高畠競歩35km。むちゃくちゃきついのにピースで応えた田中選手の姿だ。田中さんがペースが落ち、きつそうな表情を浮かべたとき、カメラを向けると、急にビッとなってペースを取り戻す。左の腕時計にはセイコースーパーランナーズ。この日の早朝もひとりコロコロを転がして距離計測をしていたに違いない。


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