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映像ディレクションの作法(08)/映像同士の接着面

今回は、前回の続きのような考察です。

撮影されたカットと別のカットをつなぐ。
いわゆる「カッティング」と言われる作業で、そのカットのつなぎ目の事を「カットがわり」といいます。この言葉はあまりに映像業界すぎるし、これから「わざわざ」考察するには、あまりに当たり前の言葉すぎてそぐわない感じがしたので、あらたに「映像同士の接着面」という言葉をつくりました。

あるカットが終わり、次のカットが始まる瞬間について、これから少し考えてみたいと思います。

カットの連なりを音符として考えてみる
ある映像が見えていてやがてパッと消え、別のイメージが瞬時に見える、という映像独特の挙動を何か別のことに例えることはできないでしょうか。

たとえば、これは音楽の音符の連なりのようなものかもしれない。
ある音が瞬時に途切れ、別の音が鳴る。これが音符の連なりです。この音の切れ目が「音の接着面」です。
ある音が静かに消えていき、次の音が次第に大きくなりながら聞こえてくる。前の音がデクレッシェンドして行き、次の音クレッシェンドしながら始まる…これはとてもなめらかな展開です。
スタッカートの強く短い音が突然消えて次の音が再び強く鳴る、これは刺激の強い強烈な展開です。

映像同士の接着面を考える上で、この音符の音量の変化のような「強度」の展開を考慮することがとても重要です。

映像における「強度」の展開
以前にも例えに使った、野球のバッターが打球を捉える瞬間の映像を使ってもう少し詳しく考えてみましょう。
使うカットは、バッターがバットを振り、打球を打ち上げる映像と、もう1カット、青空に向かって打ち上げられるボールの映像です。青空を背景にボールがフレームインします。

なめらかな展開を考える
さきほど、音符の例であげた、先行する音がデクレッシェンドしながら消えていき、次の音がクレッシェンドしながら次第に聞こえてくるなめらかな展開をこの2カットで繋いでみましょう。

バッターのカットは、バットがボールをとらえた瞬間に強度の上限を迎えます。そのあとバットは振り下ろされ、いったん一番弱い状態になったあと、バッターがファーストに向かって走り出す、という別のアクションが始まっていきます。
この一番弱い状態をカットの終わりにすると、最も弱い状態で接着面を造ることができます。

そして次のカット。青空の空舞台にボールがフレームインしますが、このカットの強度は空舞台の青空が一番弱く、フレームインと同時に強度が急激に強くなります。この映像をクレッシェンドのように使うには、一番弱い状態の青空の空舞台をやや長めに使い、ほどなくしてボールがフレームインするようにすれば良いでしょう。

バットを振り終わるという、アクションの終わり=強度の収束の印象に、青空の空舞台という情報の乏しい状態をつなぐことで滑らかな接着面を造ることができます。

刺激のある展開を考える
さきほどとは逆に、スタッカートの連続のような刺激的な展開にするには、先行するカットの最も強度の強い瞬間、バットがボールを捉えた瞬間を使い、打ち上げられるボールも、カットが始まったらもうすでにボールはフレームインしかかっている、というようなタイミングでつなぐと、強い強度同士がぶつかって刺激的な展開になります。この後に、完成を上げる観客、走るバッターの足元、手を振り回す監督、など短く、強度の十分にあるカットを繋いでいけば印象的な一連ができるかもしれません。

接着面で強度がぶつかり合う
カット同士の接着面は、先行カットと後続カットの「強度」がぶつかり合う場所です。今カットしたフレームの強度がどれぐらいであり、次にどれぐらいの強度をぶつければ望む展開になるか……ここでもカット内のエネルギーの変遷=「強度のヤマ」を見極めることが重要です。

#今回のまとめ
・映像の接着面は、先行カットと後続カットの「強度」がぶつかる場所だ。
・その様子は、音符の連なりのようなものとしてイメージすることができる。
・先行カットの終わりと後続カットの始まりの強度を注意深くみなければいけない。