
アメリカで大手航空会社vs格安航空会社の競争が激化
現在、誰もが飛行機を利用できるようになっています。
その大きな要因としては、格安航空会社の存在だと思います。
約20年間近く、以下のような格安航空の戦略は機能しています。
大手の航空会社の高い価格設定から外れる顧客が多く存在すること
ドリンクや預け荷物への追加料金を払ってでも安く飛行機に乗りたいという顧客の獲得に成功
2000年代にアメリカの格安航空会社Spritは、同じくヨーロッパの格安航空会社のライアンエアーの節約戦略を実践。(例:飛行機一台あたりの座席数の増加、1日のフライト時間の増加、など)
しかし、現在、格安航空のビジネスモデルに対して疑問視がされています。
なぜ、疑問視されているのか?そして、大手と格安航空との競合についての記事、The WSJの『How the Big Airlines Beat the Budget Guys at Their Own Game』を日本語で、簡単にまとめてみました。
なぜ、アメリカで格安航空が疑問視されているのか?
一つの大きな理由として、格安航空のビジネスのトリックが明らかになったということです。
約20年近く格安航空のビジネスモデルはアメリカで成功を納めてきました。
しかし、現在は、アメリカの大手(デルタ、ユナテッド、アメリカン)も低価格のサービスの提供を行なっております。
また、人件費や燃料費の高騰による断続的な運営のための経営資源の確保も課題の一つです。
近年では、格安航空では、飛行機を運航させるために必要なスタッフの不足が懸念されています。
特にパイロットは、大手の航空会社の引き抜かれてしまうケースがあり、格安航空の運営体制の持続性に懸念の目が向けられています。
さらに、パンデミックからの回復による国内よりも海外旅行需要の増加と顧客の趣向の変化が見られたことによって、格安航空にとって不利な状況が生まれてしまいました。
格安航空会社の強みは、国内路線の本数の多さです。そのため、コロナ禍を経て国内旅行客の増加を見込んでいましたが、結果的には、国内よりも海外旅行への需要が高まりました。そのため、格安航空は供給超過となり、海外運行を行なっている大手の航空会社が強みを発揮する形となりました。

それにより、一部の財政アナリストは格安航空を「Low margin airlines(薄利の航空会社)」と呼んでいます。
価格競争となると、低価格帯サービス提供にフォーカスしたビジネスモデルの格安航空に比べ、大手の場合は、豊富な航空サービスや社会的信頼の点など、明らかに格安航空に比べてアドバンテージとなる点が多いです。
そのため、大手と格安航空との競争となると、格安航空には勝ち目がないというのが疑問視されている理由となります。
なぜ、大手航空が格安航空を競合とみなすのか?
大手航空会社は格安航空を競合相手として見ています。
しかし、なぜ、大手は格安航空を競合とするのか。その理由を見ていきます。
元々は、お互い競合として見てなかった。
まず、大手航空会社と格安航空は違う種類の顧客をターゲットとしています。
大手航空:
ある程度金銭的に余裕のあるビジネスの利用客
格安航空:
より安い価格を求めていて大手の航空会社を利用していない、もしくは、金銭的な理由で利用できない顧客
それに加え、格安航空の飛行機が運行される航路も大手が注力していない地方の空港への飛行機がメインでした。
お互いに違う市場でサービスの提供を行うことで、顧客の取り合いが行われなかったため同じ業界の中で共存できていたわけです。
格安航空が市場を拡大し、大手と競合に。
Spiritをはじめ、アメリカの格安航空は国内で急激に成長を遂げました。その結果、格安航空はサービス提供エリアを拡大します。
従来は、大手が注力しない国内の運航航路で積極的に飛行機を運航し、顧客を獲得していました。
しかし、格安航空は、ダラスやデンバー、シカゴなどのアメリカ国内のハブ空港に運航サービスを拡大します。

このようなハブ空港は、これまで大手航空会社の主戦場であり、そのような場所に格安航空は進出してきたのです。
2015年、ユナイテッド航空のCEOであるScott Kirbyは当時のインタビューで格安航空会社との競争についてこのように明言しています。
アメリカン航空における、運賃に敏感で特定の航空会社にこだわらない、いわば「中立層」の顧客が全体の50%を占め、大きな収益源となっていたことが明らかになりました。彼らを取り込むために競争しなければならない。
これまでは、格安航空は地理的にも、顧客の性質的にも異なるターゲットを設定していましたが、ハブ空港という地理的に大手航空の市場と同じところでサービス提供を始めたため、大手の航空会社にとって、格安航空会社の存在は無視できない存在となりました。
安い運賃オプション導入で格安航空に対抗。
2017年に大手航空会社が低価格の運賃オプションの提供を開始しました。
低価格帯のオプションの主な特徴として、以下のものがあげられます。
事前の座席指定が不可
返金や予約の変更の制限
その他:ユナイテッド航空では事前荷物預けに追加料金を徴収
このような条件下で低価格帯のオプションの提供を開始し、格安航空会社との価格競争が始まります。
そうなると運賃の価格競争以外での比較が行われます。
実際に、ある男性は、一度、格安航空会社を利用して以来、大手航空会社を利用しているとおっしゃっています。
格安航空の飛行機を利用しようと思ったら、チェックインカウンターが混んでいて、キヨスクも機能していませんでした。
結局、飛行機を逃してしまったことで、もう一泊分のホテル代と予約を取り直したことによる追加の飛行機代がかかってしまいました。
それ以来、大手の航空会社を使っています。
さらに、大手の航空会社と連携しているクレジットカードを使うことで、現在ではハワイに行けるほどのポイントが貯まっています。
この男性は、低価格で飛行機を利用できる点では、格安航空に魅力を感じたものの、航空会社のサービス違いや、保証がされずトラブルがあった際の追加料金を含めたトータルコストを考えると、大手の航空会社の運賃の高さはさほど感じないと述べています。
どうなる!?格安航空!?
現在は格安航空にとって不利な状況であると言えます。
昨年、JetBlue社によるSpiritの買収が進められていましたが、アメリカの司法省の連邦判事によって、独禁法違反として、その計画は実現されませんでした。
同じく格安航空のFrontier社もSpiritの買収を計画していましたが、その見通しが立たなくなったことで、格安航空会社は単独で存続していくことが必要となりました。

各格安航空会社は単独での維持のために新たな戦略を打ち出しています。
Spiritは状況が好転するように以下のような戦略を計画しています。
いくつかの新たな市場でのサービス提供の停止(エリアを絞ってのサービスの提供)
非繁忙期での運行本数の削減(効率的な運航)
また、フロンティアは来年に2桁の利益率実現のための以下の新たな戦略を公表し、今年、フロンティア社の株は46%増加しています。
約80%のフライトを往復便にするために運航スケジュールの再編。
これにより、飛行機とフライトクルーが毎晩同じ地点に帰ってくることとなり、天候による運航への影響が軽減され、約3500億円のコストを抑えることとなる。
ハブ空港での運航を開始。大手航空会社との共存が可能との見込み。
混雑したレジャー路線からの撤退
ハブ空港への運航の開始し、大手との共存を図るという戦略の狙いとしては、
大手航空会社にとって遠距離移動などのために、ハブ空港を利用する高額の運賃オプションの顧客がメインのターゲットとなる。
一方、フロンティア航空の戦略は、普段飛行機に乗らない人を、新しいフライトで家族や友人に会いにいくように誘うことです。
このように違うタイプの顧客を獲得することで、大手との共存は可能であると見込んでいます。
まとめ
Spirit航空の苦境:
持続可能なビジネスモデルか投資家が疑問視
一時的な低迷か、大手航空による潰滅危機か
過剰供給で国内路線収入減(海外は大手航空独占)
人材確保も困難(大手航空への流出)
格安航空の過去と課題:
従来は低価格戦略が功を奏していた
飲み物や手荷物料金を追加課金しても利用客を獲得
近年は大手航空も追随(座席増、長時間運航)
運航員確保の難しさ
大手の脅威となった格安航空:
価格重視客層を争奪
大手航空はハブ空港経由で富裕層ビジネス客獲得
格安航空は主要ハブで路線拡大
アメリカンCEOの発言(2015): 低価格市場への参入表明
大手航空の対抗策: ベーシックエコノミー運賃:
座席選択不可、変更・払い戻し制限、手荷物有料など
格安航空の重要性と今後の見通し:
米国航空当局は競争促進のためSpirit買収阻止
国内旅行需要急増で格安航空復活の可能性
過剰拡大是正、モデル自体は有効との主張
Spiritの改善策:
新規市場撤退、非繁忙期運航減
Frontierの好調と戦略:
往復便運航比率80%へ変更(効率化、コスト削減)
フィラデルフィアなど大手航空ハブへの新規路線開設
過密レジャー市場からの撤退
まとめ:
大手航空はビジネス客、格安航空はレジャー客を狙う
双方共に戦略転換や値下げで競争激化
今後も旅行者の嗜好や大手航空の対応が焦点