小説『これが僕のやり方』――⑦イメージを重ねる
(前回:小説『これが僕のやり方』――⑥僕の友達)
その日の夜、自分の部屋で僕は再びスプーンの砂状化に挑戦する。
前回は目覚めた直後の勢いでやってしまったので、意識的にできるのかどうかわからなかった。しかもどういう感覚でやればいいのかもよくわかっていない。
まずあの夢を思い出してみる。
触れたものすべてが砂状に変化する夢だった。
その直後に起床し、現実で触れたものも砂になった。つまり夢が現実になったわけだ。
夢はイメージ。強いイメージだ。夢を見ている間は夢だと気づかない。それほど純度の高いイメージと思い込む力。触れたものや嗅いだものの感触もあるし風も感じる。高いところから落ちるとき、すさまじい恐怖も感じる。
あの夢を見る前に僕はイメージをしていた。スプーンが曲がるイメージやエネルギーが体を巡るイメージ。それを繰り返してきたことが、物質を変化させる能力を授かることにつながったんだと思う。
つまり僕は、スプーンが砂になるイメージをするしかないのだが、エネルギーを出すのと触れたものを砂にするというのはまったく別のイメージだ。
しかしヒントはある。夢を見たときのようにイメージを現実と重ねる。
現実というシートに、透明なシートを重ねる。それは「僕が触れたものは砂状になる」というシートだ。信じるのではない。それが当たり前なのだから疑いも信じもしない。僕にだけ色が着いた世界。
そうやってイメージを高め切った後、僕は指を鳴らしてスプーンに触れる。
僕はある程度のレベルに達したと確信した。
スプーンの柄の部分がフローリングに落ちていく。折れ目を中心に銀の粒が散らばった。
覚悟はしていたけど、身体を支えていた繊維が切れる。「ダメだ立てない」と思ったところで僕は気を失う。
目が覚めると案の定、病院だった。前回と同じような症状で、全身が筋肉痛だった。1つちがうのは、目が覚めたのが翌日の夜だったということ。母は相変わらず号泣していた。
僕は運動部のやつらがそうであるように、筋肉痛を感じながら、自分の成長を実感したのだった。
つづく