小説『これが僕のやり方』――⑨現実に落書きするようなもの
夜未知にはたいした恨みはない。ただあまり好きじゃないだけだ。確かに例の件からちょくちょくちょっかいは出されるけどいじめには発展しない。
正憲は前からちょっかいを出されている。
体育の時間。
一軍のストレス解消の時間。しかも今日はバスケ。僕がシュートを打とうもんなら少しイラッとした表情を躊躇なく見せる。
バスケ部の大村が僕を抜き去って軽々とレイアップシュートを決める。素人の僕でもわかるきれいなフォームだ。
僕と同じチームの夜未知が3Pシュートをするが、フォームは歪でボールはボードに跳ね返って大村がリバウンドする。
大村はドリブルも速い。たまたま僕が彼のディフェンスにつく。
「お、またお前か」
大村は爽やかに笑う。一歩出てドライブする。かと思うとステップバックしてジャンプシュート。これもまたきれいなフォームだ。
ボールはネットにだけ当たり、ネットとボールがぶつかって破裂音のような気持ちいい音がした。
正憲がボールを出そうとしていたので、僕は手を上げてボールをもらった。
ドリブルを始める。その場でボールを見ながら右手でついてみる。前を向くと相手チームの素人が僕のボールに手を出そうとしていた。
僕は右手のボールを腰の後ろに回して左手側に流した。その流れで目の前の敵を抜き去る。大村が僕の前にいた。
「お、リベンジか」と笑う。
3Pラインから1メートルくらい離れているだろうか。大村は3Pライン手前にいる。ちゃんと僕のスリーを警戒してくれている。僕はその場でボールを持って膝を曲げ、膝を伸ばしてその力を腕に伝え手首に伝え、中指に伝える。
「うそっ」大村はまた笑った。
ボールは丸い弧を描いてリングに当たって入った。さすがにパーフェクトとはいかない。
大村は真顔になった。
僕はただ、大村の体の動きを自分の体に当てはめてイメージしただけだ。そしてイメージ通りにゴールを決めるにはどの程度力を入れてどういう弧を描くかをイメージしてそれに僕は合わせる。
僕は正憲の視線に気づいていたが、気づかないふりをした。
つづく