小説『これが僕のやり方』――⑪ジャンプの新連載が終わるときのように
浮き足立った表情が校内にも、玄関前にも見える。卒業証書を入れる筒の「ぽん」という音が定期的に聞こえてくる。
暖かい風が吹いた。
僕が校門を抜けて下校しようとしていると、馴染みのある声がした。
「段田くん、一緒に帰らん?」
正憲だ。久しぶりだった。
すっきりとした表情を「晴れ晴れとした」と形容するなら、今の彼の顔は暴風雨といったところか。卒業式を迎えたというのに何からも解き放たれていない。
かつての僕は正憲と一緒に過ごしていたが、変わった。今できることを、あえてやらないなんてアホらしく思えてきたのだ。できることをやるたびに、僕は少しずつ、クラスの中心にスライドしていった。クラスの中心に近づくほど、正憲とは離れていくしかなかった。
そもそも、教室に1人でいると目立つので、それを隠すための友達としか思っていなかった。
その正憲が半年以上ぶりに声を掛けてきた。僕の正直な気持ちは「めんどくさい」だ。
もはやヒエラルキー最底辺の正憲としゃべることなんて何もない。
「今日は早めに家に帰らんといけんから」
そういって背中を向けたが、僕の手を正憲が掴んだ。
「5分でいいけ。時間をくれ」
僕はすぐに振り払おうとしたがびくともしなかった。そして正憲の眼光が僕を突き刺した。
何かある。
僕たちは近くの公園に向かった。
広い公園だった。森の中を切り開いてつくったようで、暗くて湿った歩道を正憲について歩いていく。
「ここまで来るのに10分かかっとるんだけど」
僕が正憲に文句を垂れると正憲は振り返って笑った。ガタガタの歯並びが顔を出す。
「段田くん、僕は君とちがうんだ」
僕は続きを待った。
「気づいとらんと思ったか? 君が少しずつ変化しとったこと。まさに劇的だった。そして調子に乗っとったね。何気ない顔をしてクールを装って。楽しかった? クラスの中心に近づけて。でもおもしろかったで。笑いをこらえるのが大変だったけど。全然馴染めとらんだもん」
「そんなこと言うために呼んだなら帰るぞ?」
「ふふふぅ。またクールぶっとる。
まぁ無駄口を叩きすぎたかもね」
そう言い終わる前に、正憲が僕に殴りかかってきた。右拳が僕の顔面に伸びるが、届かない。
僕の中の正憲のイメージを目の前の彼に当てはめてイメージする。そのイメージの強さが現実の正憲を乗っ取るように動きを制限することができる。
「そうそう。これだ」
正憲が微笑んだ。
「そのイメージの強さだよ」
僕は動揺した。正憲の拳が動き始める前に右側にずれると、正憲は動画が再生されるように動いた。
「だめだめ。イメージは健全な精神でなければ正確に生み出せんよ」
「なんで知っとる?」
「脆いなー。これなら簡単に殺せるな」
学生服が重い。
つづく
(1話目)