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『伝えるための準備学』 ー傷を抉られるたび磨かれるー

山本英晶といいます。37歳のおじさんです。
『伝えるための準備学』という本を読みました。
書き著されたのは、アナウンサーの古舘伊知郎さんです。

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発行したひろのぶと株式会社の株を僕はちょっとだけ持っています。持っているからには本が出たなら読んでみて、せっかくなのでどんな本だったかを記事にしてみようと思います。


 この本は、「準備」という目線から著者のアナウンサー人生を振り返る、自伝に近いスタイルのビジネス書である。2児の父である僕からして、準備と言えばNHKの教育番組『ピタゴラスイッチ』に登場する「がんばれ!装置153番のマーチ」である。簡潔に説明すると、複雑怪奇なピタゴラ装置(ボールが動きドミノが倒れ空き缶が転がり…と様々な物体の動きがつながってゴールに至る装置)の中でもナンバー153番の装置が53回もの失敗=撮り直しを重ね54回目にようやく成功に至った過程をなぜかデーモン閣下が歌ったもので「準備が大事 あきらめるな」という歌詞が出てくる即ち失敗を受け入れ対策を施し万端の準備を持って諦めず成功まで繰り返し取り組む姿勢を子どもたちの憧れの的であるピタゴラ装置の実際のNG集から学べるという、親として尊い事この上ないマーチなのだ。全然簡潔でなかったがつまり「成功するには準備が大事」というのは世に広く知られている。
 しかし僕は「どう準備すれば成功にいたるのか?」について誰かからちゃんと学んだことはないのだと、この本を読むまで理解していなかった。37年間ただ失敗や成功を重ね、なんとなく身に着けてきただけだった。根拠はペラペラ、だから再現性もペラペラだ。

 先に述べた通り、この本は著者である古舘伊知郎さんがどんな準備を持ってアナウンサー業に当たってきたのか、ご自身の経験をもとに記されている。正直なところ「そりゃ大成功された方ですからさぞかし万全の準備をなさる才能がおありなんでしょう、その成功体験をもとにドヤ準備をドヤドヤと語られるのでしょうな」と斜に構えて読み進め始めた。才能をもって成功を収めた人間の言葉はいつも厳しくそれでいて本人は当たり前だと思っているから、なんだか寂しい思いばかりする。
 古舘さんはそうではなかった。なにせこの本は著者の赤裸々な大失敗談から始まる。そして何が足りなかったのか、どうすればうまくいくのか、本物の準備とは何かをアナウンサーとして著者が追い求めた結果が惜しげもなく、ここは殊更に強調したい、おっしげもなく書き記してある。
 さらに惜しげないものをここで紹介しておく。

 目次とは著者がその章で最も言いたいことが書いてあるものだが、それを出版社が全部見せちゃっている。記事内の画像の画質を悪くしてあって微妙に読めない、なんてことはない。とてもおっしげない。ちなみにおシゲちゃんと言えば『忍たま乱太郎』でしんべヱのラヴァーとして描かれる登場人物だが、乱太郎たちが通う忍術学園の学園長の孫娘であることはあまり知られていない。

 僕はこの本に、ひろのぶと株式会社の社長である田中泰延さんの著書『読みたいことを、書けばいい。』『会って、話すこと。』この2冊と共通するエッセンスを感じた。『読みたいことを、書けばいい。』では、書くに至るまでの入念な調査・取材について語られる。それはまさに本書で書かれた徹底的な準備であり、それはひとえに伝える相手に対する誠意の現れだ。そして『会って、話すこと。』で触れられた「知識こそ会話の面白さである」という点は、本書で語られた準備に宿る自分らしさに通じている。才覚だけでなく成功のために必死に生きたとき、たどり着く場所というのは似てくるのだなと感慨深かった。

 いいところにばかり触れては僕の立場上説得力を欠くので、この本のよくないところを一つ紹介する。読んでいる途中で自分の失敗がめちゃくちゃフラッシュバックし、傷を抉られる。上質な準備の過程を理解するうち過去の自分の準備の浅はかさを痛感するのだ。なぜもっと早いうちにこの本を読んでおかなかったのか。しかし世の中になかったのだから仕方ない。せめて小さな成功体験や「この準備はできてたことがある」というところにフォーカスをあてながら、ここがスタートなのだと思って読み進めることをおすすめする。失敗による傷は自らを磨く一手とは、まさに本書でも語られているところである。


ここまでお読みくださった方、ありがとうございます。
とてもよい本ですので、お手に取っていただけるとさらに喜びます。
なにとぞ、ぜひに。


(了)


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