ラストオーダー

少し前に奥ちゃんと鮪家(つなや)というお店に行きました。
このお店は恵比寿駅あたりで朝5時までやっている有名なお店です。同業者もけっこう深夜にいきます。
その日僕らはちょっとした反省会があったので、朝4時過ぎくらいに入れるお店を探していました。もちろん鮪家は最初に頭に浮かんできたのですが、ラストオーダーが4時30分ですので、ラストオーダー間際のお店に行くのは気が引けるなと言う感じでした。
なので、他のお店も探しましたが5時までやってるお店はちらほらありますが、せいぜいどこも4時半ラストオーダーで結局一緒です。それ以上やってるお店となるとあまりありません。
1軒、8時までやってる〇⚪︎〇〇というお店はあったのですが、そんな時間に〇⚪︎〇〇に行っても、タバコはバンバン吸ってるだろうし、治安的にカオスなこと間違いないので、行く気持ちになりません。
それであれば背に腹はかえられません。もうしょうがないかなと鮪家さんにお邪魔することに。
4時10分くらいにお店の前に到着。
入り口の窓から店内を覗くと、なんとノーゲストではないですか。
ラストオーダー間近でノーゲストのお店、ましてや朝方。同業者として入店するのはなかなか申し訳ない。でも、反省会はしたい。でも、〇⚪︎〇〇には行きたくない。いや、でも、同業者としてさすがにそれは申し訳ない。
『いらっしゃいませー』
店内に入っていました。
とはいえ、この時間ですから顔が引きつりながら開口1番に、
『ラストオーダーが・・・』
と入店しないように促させることは想定内。
そうくればこちらも返す刀で、
『大丈夫です。5時にはちゃんと帰ります!』
と、喉元まで用意してあります。
しかし、迎えたホール店員さんは、明るく元気に
『いらっしゃいませー。カウンターとテーブルお好きな方にどうぞ!』
とめちゃくちゃウェルカムムード。まじですか。
この時間ですと、ガラ空きの店内でも、だいたい店員さんの都合で席を決められて、締め作業を優先しようとしてくるお店も少なくありません。実際それでもめることも少なくありません。それなのにこのお店は!
そして、反省会はカウンターで瓶ビールを分け合うと大昔から決まっています。
『では、カウンターで!』
全部自分たちの都合のみで決めていく2匹の同業。
ただ、カウンターの中には職人みたいな調理場を任されているであろう方が立っています。
そうです、鮪家は、寿司居酒屋なので、職人的な人がカウンターの中にいます。さっきのホールスタッフの方はめちゃくちゃなウェルカムムードで迎え入れてくれたけど、さすがに職人ともなれば今オーダーされるかどうかで片付け時間が大幅に変わってきます。つまり帰る時間もだいぶ変わってきます。
座るなり引きつった顔でラストオーダーの話をされるに違いない。
再び、『大丈夫です。5時には帰ります!』
といつでも出せるように喉元にセット。
カウンターに座り、恐る恐る顔を上げて、薄目でラスボスの顔を見ました。
『いらっしゃいませー!』
ラスボスも爽やかにウェルカムムード。まじですか。
2匹の同業『び、瓶ビールください』
ラスボス『かしこまりました!瓶ビール一丁ー!』と元気よく。
そのあと、
『あと、申し訳ございません。ラストオーダーが4時30分なのですが、揚げ物だけもしご注文あれば最初に聞いておいてもいいですか。他はなんでも大丈夫ですので。』
とすごく恐縮して聞いてこられました。
そうなんです。ここは完璧なんです。ラストオーダー間際の対応の鏡です。

①まずは精一杯のウェルカムムード
②ラストオーダーが近いことをさすがに知らせないとあくまでお客さんに迷惑がかかるかも。
であれば、それをファーストドリンクオーダーをもらってから言う。先にそれを言うとお客さんに気を使わせてしまう。帰った方がいいのかなと思われてしまう可能性がある。なので、ファーストドリンクオーダーを頂いてから、それを伝える。もしお客さんがラストオーダーの時間を本当に知らずにそれだと困る!と言う場合はそれからドリンクキャンセルも間に合う絶妙のタイミング。
③ラストオーダー15分前だったら、さすがに揚げ物ぐらいは聞いておいても迷惑になることはまずありません。そうすれば少し時間のかかるフライヤーの締め作業ができます。ノーゲストの店内でやることがないスタッフさんに囲まれてラストオーダー待ちされるのも、お客さんとしても居心地が悪いというものです。
ただ、あくまでそれはお店の都合。ものすごく恐縮して聞いておられました。
はい、完璧ですか。

そして、揚げ物のオーダーの有無を聞かれた僕らは、
『揚げ物は大丈夫です!あと、生ビールも頼まないのでビールも締めちゃってください!』
さっきまで自分たちの都合でしか決めてなかったのに、急に恩着せがましくイキりだす同業2匹。めちゃくちゃダサいです。逆だったらそうとうウザいはずです。ラストオーダー間際のウザいお客さんコンテストがあればだいぶ上位に食い込めるでしょう。
そうして、飲食業の鏡VS同業の片隅にもおけないやつ、におけるラストオーダー間際の攻防は、僕らの完敗に終わりました。コールドゲームでしょう。このお店のトリコとなり、僕らはこのお店の支配下に置かれました。一生ついていきます。
そりゃ必ずまた行きますよね。
飲食ってこう言うことなんだなとあらためて思いました。
そして、そんな接客ですごくいい気持ちになり反省会も熱を帯び、ついに5時という時間を迎えました。(結局5時まできっちりいる)
今日は清々しくいい気持ちで帰れるぞー。
そう思っていた矢先に、隣の奥ちゃんからまさかの一言。
『実は、、僕始発まだなんですよね。あと30分くらいありまして』
『えっ?(早く言って)』
さっきまで反省会をして、結束が高まったところで始発まで時間ある同志を眠いからと見捨てて先に帰るような人とは思われたくないというあくまで自分都合の思考が脳裏をかすめました。
『了解だよ!今日はとことん付き合うよ。〇⚪︎〇〇行こうじゃないか』
全力でいい奴ぶりました。
そして、結局、〇⚪︎〇〇に行くことになる僕たち。因果応報とはこの事でしょう。
鮪家から徒歩1分のところにあるので、すぐ店前に着きました。
店前にはすでに酔い潰れた女性を男2人ぐらいが寄り添っています。思った通りのカオスぶりです。介抱するふりしてワンチャンお持ち帰り狙ってる可能性すらあります。
関わらないように、スタスタと店内に入ると、店内は店前にいた客たちと同じグループであろう飲み会の団体が奥で下品に騒いで1組いるだけで、基本的には店内はガラガラでした。
『何名ですかー?』
『2名です』
『2名様用のテーブルでお願いします』
と狭いテーブルを案内されました。
『??』
店内はガラガラなのに?4名用のテーブルまだまだ空いてるじゃん!なんで狭いテーブル限定なの?
僕『えっ、こっちでもいいですよね?』
店員『2名はこちらでお願いしてるので!』
僕『いやいや、もしお客さん来たらすぐ移動するので』
店員『ぐぬぅ』
特に言い返せる材料が見当たらなかったんでしょう。ぐぬぅは言ってたかは忘れましたが、言ってたことにしてください。
『そしたら、来たらすぐ移動してもらいますからね』
その念押しいる?
渋々4名用のテーブルに通してもらい、ドリンクを注文。
そして、ジョッキに入った緑茶割りを持ってきた店員さんはテーブルにドンっと置くと、
『お席2時間制になっておりますのでー』
さっきの報復ですか?8時閉店のお店、ガラガラの店内、5時過ぎに入ってきたお客さんにそれ必要ありますか。
しかし、だいたい想定内なので悲しい気持ちにはなりましたが、奥ちゃんの始発までなんとかやり過ごし帰りました。
徒歩1分圏内で同じ飲食店でもこんなにも違うものです。まさに天と地。
天のお店から、1分で地のお店に移動しました。
体感が凄まじいです。
今中(元中日)のストレートの後のスローカーブはこういうことだったのでしょう。
若い人はダルビッシュに置き換えてください。
野球を知らない人にはなんて例えたらいいでしょうか。混浴でダレノガレと85歳おばあちゃんと連続ですれ違う感じでしょうか。
話がそれました。

何が言いたかったかというと、まず鮪家素晴らしい!
そして、この連続は分かりやすいなと。
どちらか一方だけ行くとそこまで実感ないかもですが、連続でいくと色々考えさせられます。
いいお店だけに行くと、いいお店だなー。すごいなー。
よくないお店だけに行くと、よくないなー。ダメだなー。
で終わってしまう可能性があるところが、連続だと違いが丸わかりです。勉強になり方が違います。食べ比べ飲み比べみたいなもので。
どちらのお肉やお酒がうまいって、食べ比べ飲み比べした方が分かりやすいのと一緒で。
基準ができるので分かりやすいわけです。

ちなみに、
『ということで、今度のうちの繁盛店視察廻りも朝4時恵比寿駅集合でやってみるのもありかもですね!』
って、サッポロビールの瓜田さんに言ったら、苦笑いのみで返事はなかったので繁盛店視察では難しそうです!

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