「文化」としての受験参考書

日本の戦後最大のベストセラーはどの本なのか、ご存じだろうか。

一般的には黒柳徹子著『窓ぎわのトットちゃん』が800万部(国内での売り上げ)を超えて、戦後最大のベストセラーといわれている。

だが実は、それ以上に売れた本がある。

森一郎著『試験にでる英単語』(青春出版社)。1500万部以上も売れたという。

売り上げだけでいったら、「トットちゃん」よりも村上春樹よりも司馬遼太郎よりも、受験参考書の「でる単」のほうが多くの人が手にしているのである。

それなのに、受験参考書は普通の書籍としてはほとんど見られていなかったし、語られることもあまりなかった。

だが18歳、19歳という多感な時期の若者が毎日毎日読んでいる参考書は、人格形成の上でも何らかの影響を与えるものだ。ただ受験テクニックを伝達するだけの実用書だと思ったら、それは大きな間違いである。

実際、無味乾燥な実用書に見える英単語集にも一冊一冊個性があるのだ。

前述の「でる単」にしても、ただ英単語と日本語訳を並べているだけの英単語集ではない。

idolという単語の説明に桜田淳子が出てくる有名なくだり(※現在販売中の版では桜田淳子は削られている)だったり、wrestlerという単語の説明で「ジャイアント馬場といえばわかるだろう」といったりするように、ユーモアが結構込められているのである。また、当時の流行や時代背景も参考書でわかったりもする。

受験生という精神的に追い込まれる境遇で、噛んでも何の味もしないような参考書をひたすら読むのは辛すぎる。どうやったら少しでも楽しく受験勉強ができるか、参考書の著者たちも昔から工夫を凝らしてきたのだ。

また、受験参考書は高校の「お勉強」から、大学の「学問」への橋渡しをする役割もある。

しかし受験生の多くは有名な文学作品も新書も読んでいないし、新聞もろくに読んでいない。そんな受験生の知的好奇心をどうやって目覚めさせるか。そこは著者の腕の見せ所である。

そういった、受験勉強からちょっと外れた観点で受験参考書を読んでみると、実はとっても面白い。受験期という人生のある一時期だけ読まれるものだが、単なる試験のための知識以上のことがそこには書かれている。

だからあえてこう言いたいのだ。

「受験参考書は『文化』である!」

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