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大学の生物学ってどんなの?中学理科・高校生物との繋がりは?

こんにちは。穎才学院講師のMです。この記事では、私が大学で学んでいる生物学についてお話しします。中学生・高校生の皆さんに親しんでいただけるように、中学理科・高校生物の内容と絡めながら、大学の生物学とはどのようなものなのか紹介していきます。

1. 微生物の話

まずは、私が大学で扱っている微生物の話から始めます。

微生物というのは、その名の通り生物の分類のひとつです。一体どんな生物なのでしょうか。

生物には植物や動物など様々な種類のものがいて、全ての生物は細胞で出来ている」という知識は、中学2年生の理科で登場します。生物の中には、私たちヒトを含む動物のように沢山の細胞が集まって1つの体を作っている多細胞生物と、ミドリムシやゾウリムシのような1つの細胞からなる単細胞生物がいます。微生物というのは目に見えない、顕微鏡で見ないと観察できない生物のことですが、その殆どは単細胞生物です。

高校生物の知識まで使えば、殆どの微生物は次のように表現することができます。「原核生物(細菌・古細菌)、原生生物、菌類、ごく一部の動物」。この表現の良いところは、一口に「微生物」と言っても、その中身は多種多様であることが分かる点です。目に見えない微生物達は、実は豊かな多様性を持っているのです。そして、私たち人間は、この多様性から多くの利益を得ています。

皆さん、納豆はお好きですか?納豆は納豆菌と呼ばれる微生物(細菌)が大豆を発酵させて出来た食べ物です。他にも、味噌、醤油、お酢、パン、ヨーグルト、チョコレート、キムチ、お酒など、実に多くの食べ物に微生物が関わっています

もちろん、食べ物以外にも微生物は役立っています。市販されている化粧水には、微生物由来の成分が入っているものがあります。汚染物質を分解する微生物を利用して環境を綺麗にしようという研究も行われています。

他に有名なのはです。例えば、有名な抗生物質のペニシリンはアオカビから見つかりました。記憶に新しい例では、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智先生は、寄生虫に有効なアベルメクチンという薬の成分を微生物から発見しました。

微生物研究の重要さがお分りいただけたでしょうか?大学では様々な分野の研究者が、それぞれの目的を持って微生物の研究をしています。医学・薬学の分野では、病気を起こす微生物を研究する事で病気を予防したり治療したりする方法を調べようとしている人が沢山います。また、微生物で薬を作る研究も盛んです。農学の分野では、食品をはじめとする微生物の有用性の側面にスポットを当てています。あるいは、微生物を利用して遺伝や代謝などの生物の基本的な仕組みの研究をする人もいます。

2. 遺伝子の話

次に遺伝子の話をします。

遺伝子といえば、中学3年生の理科や高校生物に登場する、メンデルの実験が有名ですね。メンデルは豆の形の観察を通じて、子供の豆の形を決めるのが親から受け継いだ遺伝子であることを確信し、遺伝子が従う法則として「メンデルの法則」を発見しました。現代の私たちは、遺伝子を構成する物質がDNAであることを知っています。

そればかりか、人類はDNAの配列を読んだり、切り貼りして遺伝子を人工的に作り変える方法をも発明しました。私も大学で遺伝子を変化させた微生物を作り、日々の研究に使っています。

私がどういう研究をしているかというと、大雑把に言えば、遺伝子を壊すことでその遺伝子の役割を調べるという研究です。

例えば、テレビのある部品を壊すと音が出なくなるとします。そうすると、その部品は音を出す機能に関係していた、ということが推測できますね。このように、遺伝子をわざと壊して、どのような不具合が出るかを調べることで、遺伝子がどういった役割を果たしているかを探っていくことができます。

もちろん生物の遺伝子は、機械のパーツより話が複雑です。ある遺伝子を壊すことで生物の色が変わってしまうことが発見できたとして、その遺伝子は色の成分を作っているかもしれませんし、体内でそれを運んだり貯めたりすることに関係しているかもしれません。あるいは、色の成分を作る別の遺伝子のスイッチになっている遺伝子という場合もあります。それでも、少なくとも色に何らかの形で関係している可能性が高いとは考えられますね。そのヒントを基に、遺伝子を壊す以外の方法でも調べていくことで、最終的に役割を特定することになるわけです。

高校生物を学習している読者の方は、ビードルとテータムのアカパンカビを使った実験と「一遺伝子一酵素説」を思い浮かべたかも知れません。先に挙げたメンデルや、DNA二重らせんを解明したワトソンとクリック、そしてビードルとテータム。彼らをはじめとする沢山の研究者によって遺伝子の謎が解き明かされ、今日の生物学とバイオテクノロジーを支えているのです。

3. 微生物と遺伝子の話

さて、ここまで微生物の話と遺伝子の話をしてきました。ここからは、微生物と遺伝子の話をしていきます。

私も大学では、微生物を使って遺伝子の研究をしています。では、遺伝子を研究するのに、なぜ微生物を使うのでしょう?

メンデルはエンドウマメという植物を使って実験を行なっていましたね。しかし仮に、私が植物を使って遺伝子の研究をするとしたら、とても大変なので気乗りしません……。と言うのも、エンドウマメは畑に種を植えてから豆が取れるまで半年ほどかかってしまうため、実験の結果を出すのにとても時間がかかってしまうからです。

一方で、多くの微生物は生育が早く、植えてから1~3日で十分育ってくれます。さらに、単細胞生物は細胞ひとつで生きているので、その中の遺伝子を操作するのが多細胞生物よりも楽です。ある動物の細胞全ての遺伝子に変化を加えようとする場合、受精卵に操作を加える必要がありますが、微生物であれば沢山の細胞を用意して一斉に操作を加え、成功したものだけ取り出せばOKなのです。このように、実験をするにあたって効率が非常に良いというのは大きな理由のひとつです。

他の理由としては、遺伝子の変化とその結果の形質を結び付けやすいというものがあります。先ほど挙げたビードルとテータムの実験では、カビにX線を当てて突然変異を起こしていました。ヒトを含む多くの多細胞生物は、染色体を2セット持っていますね。一方で、二人が実験に使ったカビは、染色体が1セットしかない状態で細胞分裂を繰り返すことができる生物です。染色体が2セットあると、片方の遺伝子が壊れてしまったとしても、もう片方が無事であれば、機能に問題が出ない場合があります。1セットしかないことによって、遺伝子が壊れた場合、その影響がはっきりと現れることになります。そうすると、ある問題の原因がこの遺伝子が破壊されたことであると考えられますから、そこから、その遺伝子の機能を推測することができるというわけです。

ここで、微生物を用いた遺伝子の研究の有名な例を紹介します。2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞した、大隅良典先生の「オートファジー」に関する研究です。この研究では、出芽酵母が使われました。出芽酵母というのは、パンやお酒を作るのに使われる、実は身近な微生物で、遺伝子の研究にもよく用いられます。

オートファジーというのは、大雑把に言えば、細胞の中のタンパク質を分解して再利用する仕組みのことです。細胞の中で物質をリサイクルしていると考えてください。このリサイクルは、様々な生物の細胞で行われており、私たちヒトも、この仕組みを持っています。大隅先生の研究は、このオートファジーを引き起こす遺伝子を見つけようというものです。

ここで、先ほどのテレビの喩えを思い出して下さい。ある遺伝子を壊して、そのせいでオートファジーができなくなってしまったら、その遺伝子がオートファジーに関係していると考えることができます。しかし、どの遺伝子が目当ての遺伝子かは分かりませんから、狙って壊すことはできません。ここで微生物を使うことの利点が活きてきます。細胞に放射線を当てることで、遺伝子をランダムに壊した酵母を大量に用意したのです。そして、その中からオートファジーができなくなっている酵母を探し出すことで、機能に重要な遺伝子を見つけることに成功しました。

この発見が最初になされたのは今から30年ほど前のことだそうです。発見の後も多くの人がこの研究に参加し、新たな発見を積み重ね、あるいは医療や産業に応用するための研究を行っています。あらゆる研究は、別の人の研究のバトンを受け継ぐものです。私が大学でやっている研究も、研究室の先生方や先輩方の発見を基にして、新しい発見を積み重ねようとしています。その先生方や先輩方の発見も、それ以前の別の誰かの発見を基にしています。今これを読んでいる皆さんも、大学に進学すると、この大きな大きなリレーに参加することになるかもしれません

ここで皆さんに、役に立つかもしれない情報をお教えします。この文章の中では、折に触れて「中学理科で〜」とか「高校生物で〜」とか書いてありましたよね。実のところ、研究の舞台に立つための最初の一歩になるような知識や考え方というものは、小中高の勉強の内容に沢山含まれているのです!これはもちろん、生物だけでなくどの分野でも同じです。

このnoteを通じて、「どうして勉強しなきゃいけないんだろう?」なんて思ったことのある皆さんに、私なりの考えを示す事ができていれば幸いです。

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