影従の霊鬼夜行 嵐の章 1
四候の一人、山陰の幽吹は雲の上にいた。
天邪鬼の長は空を流れる雲の上で、仙人のように隠れ住んでいたのだった。
幽吹と八尺は、日本中の空を探し回り、3日目にしてようやく彼女を発見した。
「よくあの八房を説得できたわねぇ」
雲の上で寝転びながら、下界を見下ろす女が言う。
「大変じゃなかった?」
女は体を起こすと、幽吹に尋ねた。
幽吹は「アンタを探す方が大変だったわよ」などと小言を言って続ける。
「私だけだったら、あのイヌが姿を見せたかどうかさえ怪しいわね。警戒心が強いったら」
「そこで司君かぁ。八房って、お姉さんの崎ちゃんに憧れてるし、御影の人間連れて行けば、そりゃ黙ってられないよねぇ」
「……そう言うアンタは、一体どうやったら姿現すのかしら。私が探してたの気付いてたでしょうが」
「えぇ〜、だって、探されてるなら、簡単に見つかりたくは無いじゃない?」
ふわっとした口調で言う。
「あー、腹立つ」
幽吹はいらっとして雲を千切って投げつけた。
「で、アンタは村に戻ってくれるんでしょうね」
「戻るって、たま〜に顔出す程度でも良いの?」
「それで充分よ」
「なら、幽吹ちゃんも村にいるし、良いかなぁって……でもなぁ、簡単に戻るのもつまらないし」
「はあ!? ふざけないでくれる!? 面白さ求めてんじゃないわよ!」
「あ〜、そうそう。良いわね幽吹ちゃん。その顔が楽しみだったの」
「……はぁ。お楽しみは他に用意してやってるんだから」
幽吹が溜息を吐くと、天邪鬼の長は大きな白い瓢箪を召喚した。
「これでも感謝してるのよ、幽吹ちゃん。一緒に乱れましょうね」
その頃の初瀬村……
クモの洞窟。
「獄丸。手筈は整ったか?」
「ええ、各部隊長の召集、完了致しました」
鬼の大将、鬼玄に副将獄丸(ヒトヤマル)が答える。
カラスの大木。
「ただいま偵察から戻りました。やはり山陰はあの者を探している模様です」
「……ご苦労だった夜天。戦に備えろ」
天狗の大将、飛禄に報告するのは、副将、女天狗の夜天(ヤテン)。
ヘビの瀑布。
「儂等に戦う理由は無いが……ここで知らぬ存ぜぬでは、後が怖いからのぉ。最低限の戦力だけは出してやろうか」
「己等はどうする?」
「沢虎、お主も出ろ。他の副将も出るじゃろうて」
河童の大将、河凪が副将沢虎(サワトラ)に命じた。