影霊 イナノメの章 29

「敵勢力の名は『イナノメ神軍』私達妖怪はイナノメ軍って呼んでるけど。構成員の殆どを人間が占めてるわ」
幽吹が説明を始めた。
「妖怪と対立してるんだよね。どうして?」
「人間一人一人に共通した目的があるわけじゃないの。上に立つ、一人の人物に操られ、力を貰ってるだけ」
上に立つ人物とは? その人物の目的は? 力とはどのような力なのか?
三つほど疑問が生まれ、幽吹に訊ねていく。
「イナノメ軍の指導者の名前……いくつか呼び名があるみたいだけど、ひとまずミカミとしておくわね」
ミカミ。
「ミカミの目的。これは今のところ、ハッキリとは分からない。時々、発作的に妖怪を襲いたくなるみたいなの」
発作という言葉、最近村で聞いたような……聞いてないような。
「ミカミが持ち、人間に与えている力。これだけはハッキリと言える。陽力よ」
陽力。俺や幽吹、綾乃が持つ陰力の対極に位置するとされる力か。
「日頃私達妖怪をほぼ認識できない人間が妖怪を認識し、同時に攻撃さえ出来る理由には、この陽力があるってわけ」
なるほど。陽力は妖怪が最も苦手とする力だ。俺も陰術使いとしては苦手かもしれない。
「陽力は厄介だけど、逆に言えば厄介なのはその陽力だけ。だから、人間を無力化する時、わざわざ殺す必要は無いの。人間に与えられた陽力の根源を破壊するか、陽力切れを待てばいい」
「わざわざ? 殺す方が簡単だよね」
嵐世が口を挟む。
「陽力を失った人間は、私達妖怪を認識する事が出来なくなる。錯乱状態に陥る連中もいる。戦場ではただの役立たずよ。だから、殺さない方が都合の良い場合も多いわ」
嵐世に反論するように幽吹が説明した。
「なにより下手な逆恨みを買わずに済みますわね」
銀竹の言う通りだ。身内が妖怪に殺されたと知ったら、妖怪に恨みを持つ者も増え、さらなる敵を増やす事だろう。
「私の味方はいないの? 逢魔くんは理解してくれるよね」
「してやれねぇな」
妖怪の中でも、嵐世のような考えの持ち主は少数派なんだろうか。そうであって欲しい。
「陽力を与えられた人間の中でも、特に実力が高いとされてる者は昔の人間の名前を名乗ってるの。それを武将格の人間、イナノメの将と呼んでる。今回現れたタムラマロもその一人」
ゲン担ぎ的なやつだろうか。それとも……
「昔の人間の子孫とか?」
「多分関係無いわよ。もともと妖怪が識別の為にそう呼んだ事が由来って話だし。なにより、次から次へと出てくるもの。タムラマロだって、今のタムラマロはもう五代目くらいでしょ? 銀竹」
「六代目ですわ。五代目はワタクシが引導を渡してやりました」
ふふん、と自慢気に言う銀竹。
「いまいち飲み込めないなぁ。イナノメ軍はいつから活動を?」
「活動期間自体はとても短いわ。今回が3度目の発作といったところで……1度目と2度目も、それぞれ1年も続かなかった」
つまり、長く見て今回が3年目って事か。どれだけ間隔が空いているのかは分からないが、3年目で五代目、六代目と名前を継ぐものが現れるのはかなり早いペースかも。
「そういえば嵐世、頼んでいた仕事はどうなりましたか?」
「うん、それはバッチリ。えんらえんらを鬼然に送ったよ」
えんらえんら。嵐世が召喚した妖怪だろうか。
「鬼然に何か伝えたの?」
「逃げ出したタムラマロの始末をお願いね〜って事。それと……」
「『百鬼夜行』の再始動、その号令ですわね」
「百鬼夜行?」
今日は初めて聞く言葉が多くてなかなかしんどい。

#小説 #イナノメの章 #ヨアカシの巻

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