影霊 キの章 7

「おお! 吉田! 桐竹! よく帰った!」
青く、ツルピカだったはずの頭部に黒く厳しい兜を被った儀右衛門が、短い両手を広げて二丁の火縄銃を抱き締めようとする。
しかし、吉田と桐竹は蔵の中を逃げ回る。足の短い儀右衛門が追いつく事は無かった。
「くそ、すばしっこいな……とにかく、帰ってきて良かった。ありがとう司くん」
「ああ、うん。その兜、どうしたの?」
儀右衛門の頭を指差す。
「これか? さっそく逢魔くん達が見つけてくれたのだ」
逢魔と弁慶は焼失した屋敷周辺を捜索し、逃げ出した付喪神達を次々と捕獲しているようだ。ガラクタが再び山となりつつある。
「他にもいくつか持って帰って貰った。ワシはこれからかすたまいずに入るので、司くんは線路の方を頼む」
「ほーい」
「じゃあぼくは逢魔と弁慶の手伝いに行くよ」
儀右衛門はガラクタの山に埋もれ、風尾は小屋を飛び出した。
俺も線路の製作に取り掛かろう。
「日が暮れる前には帰りたまえ。もちろんここで徹夜で働いてくれても良いが」
ガラクタの山から声がする。
「あ、帰ります帰ります」
そこまでのやる気は無い。
俺が線路の複製に苦心していると、吉田と桐竹が擦り寄ってきた。俺が気に入られたのか、叢影の近くにいたいのか……何にしても銃口を突きつけられるのは生きた心地がしない。
「そういえば、このツキヒの武器、吉田と桐竹はどうして儀右衛門が?」
「うむ。ツキヒの武器は代々御影の人間が使用するものである。ならばなぜこのワシが所有しているのか……その疑問は当然だな」
「うん。儀右衛門だけじゃなくて、綾乃や文車妖妃の衣通も持っていたけど」
「そうだな。簡潔に言おう。ワシ達が現在所有しているツキヒの武器は、御影の人間の形見なのだ」
形見。それは死んだ人や別れた人の遺品の事である。
「つまり、今は亡き俺の御先祖達が持っていた武器を、儀右衛門達が受け継いでるって事?」
儀右衛門はガラクタの山から出てきて、俺に向き合った。青狸の気の抜けた顔が、少し引き締まっている。
「そういう事だ。その二丁の火縄銃、吉田と桐竹の本来の所有者は、御影綱重というワシの親友だ。吉田と桐竹が君に懐いているのも、あの男を思い出させるからだろう」
御影綱重(ツナシゲ)……俺の御先祖様か。
いつか俺が死んだら、この叢影も誰かが受け継ぐのだろうか。

#小説 #キの章

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