影従の霊鬼夜行 裏の章 1

過ぎし日の妖怪の理想郷、初瀬村。
村のほぼ中心部に位置する屋敷には、村長である四方裏綾乃と、三大妖怪の大将、そして御影司の母の姿があった。
「綾乃! どうなっている!?」
「よく来てくれたわね、鬼玄」
鬼の大将である鬼玄(キゲン)が綾乃に詰め寄った。
「あの鬼は一体どこから来たんだ!? ワシは知らんぞ!」
初瀬村は、鬼の大軍からの侵攻を受けていた。鬼の所属は不明だ。
「また彼奴の仕業では無いのか? 鬼玄よ」
「黙れ河凪! 例えそうだとしてもワシは関係無い!」
河童の大将、河凪(カワナギ)が鬼玄を茶化し、鬼玄は激怒した。
綾乃は鬼玄と河凪の小競り合いには見向きもせず、話を続ける。
「飛禄、敵の鬼達の出処は探った?」
「……ああ。しかし、奴等は村の外から湧いて出てくるように現れ続けている。特定の場所から進行してきた訳ではなく、何者かが召喚をしているようだ」
天狗の大将、飛禄(ヒロク)は部下が探ってきた情報を話した。
「そのようね。私の推測では……奴等は地獄から這い出てきた冥鬼よ」
冥鬼は地獄の獄卒である。本来地上に現れる事は無い。さらに例え現れたとしても、地上の妖怪を襲う理由は無かった。その冥鬼が今、大軍で初瀬村に迫っていると綾乃は言う。
三将はこの推測に衝撃を受けたが、決して否定はしない。
「……なら彼奴の仕業では無いな。もっと嫌な相手じゃ」
河凪が疑っていた妖怪の容疑は晴れ、同時に真の犯人が特定される。
「……あまりに突然過ぎる。増援は望めない」
「ふん、ワシ等で充分だ。綾乃よ、分かっているな?」
鬼玄は牙をむき出しにして言う。
綾乃は真剣な表情で頷いた。
「二度と失敗は繰り返さない。行きましょう、月夜」
綾乃、鬼玄、飛禄、河凪の視線が一人の人物に集中する。
沈黙を続けていた人物は立ち上がり、口を開いた。
「ええ、私の代で全て終わらせる」
黒き影が地を走る。御影月夜(ミカゲ ツクヨ)の影響力は、村全体を覆いつくさんばかりの勢いであった。

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