影霊 ガリョウの章 16
改めて主導者として認められた幽吹が会議を進めていく。
「……前回の戦いでの戦果や反省を踏まえて、各隊列の再編成案を考えてきた」
一同が息を飲む。
「まず、私と嵐世、蛭子は隊長を辞めて、それぞれ主導者、伝令、参謀の役目に専念する。つまりその分、隊長の椅子は空いたということ」
何も異論は出ない。
「それじゃ発表していくわね。第一隊列隊長は白鬼の鬼然」
「うむ」
「幽吹が空けた椅子じゃねぇか。実質主導者だぜ」
「それは困るな」
炫彦が鬼然をからかう。
「第二隊列隊長、海難法師の海尊。
第三隊列隊長、火車の炫彦。
第四隊列、全国化狸聯合。代表者無し。
第五隊列隊長、つらら女の銀竹」
次々と各隊列の代表が発表されていく。
「第六隊列隊長、大百足の赭土(ソホド)。
第七隊列隊長、えんらえんらの異香」
「異香ちゃん頑張ってね〜」
「はい」
元は嵐世が率いていた隊列のナンバーツーであった異香。嵐世が抜けた穴を埋める形での昇格となった。
「赭土は前回の戦いで目覚ましい戦果を上げたからね、頑張りなさい」
「勿体無きお言葉」
社殿に巻きつく大百足が顔を見せる。
大百足の赭土は幽吹の隊列で活躍した妖怪であった。
「さあ、どんどん続けるわよ。ここからは小隊列になるわ。
第八隊列隊長、赤舌の絶禍(ゼッカ)。
第九隊列、日本稀人衆。代表、なまはげの冽(レツ)。
第十隊列、琉球妖怪。代表は龍神だけど、あいつは沖縄から動かないから隊長はキジムナー、ブナガヤ姉妹。
第十一隊列、婆寄合。代表者無し。
第十二単隊隊長、鬼女の鈴鹿。欠席……はぁ、疲れてきた」
「幽吹ちゃん! その調子だよ! 頑張りな!」
ダミ声の声援が上がる。婆寄合の老練な妖怪達であった。
第十一隊列を構成する婆寄合は化狸聯合と同様に隊長、代表者は決めていない。だが、化狸とは違って関係は良好。足並みを揃えるという意味で代表者を立てないのだった。
「ありがとねお婆ちゃん達……はぁ、ここからがしんどいのよね……」
幽吹は引き続き隊列の主要な編成を発表していった。
「……参謀、あとは任せたわよ」
力尽きて蛭子にバトンタッチする。
「うむ。任されよう」
イナノメ軍とどう戦っていくか、戦略や心構えを新たに参謀役を請け負った蛭子が話す。
そして再び幽吹が口を開いた。
「これで私から伝えることは最後……今後の展開によっては、日隠村と連携する事も考えなくてはならない。だから……」
「日隠村と!? それは御免じゃ!」
化狸を筆頭に次々と否定的な声が上がる。
「特に御影月夜は妖狐を従えとる! あの連中と組むなど言語道断!」
「そんな細かいこと気にすんなよ」
「細かくない! 儂等化狸と妖狐の敵対関係は数千年にも及ぶんじゃぞ!」
「あの村の鬼や天狗と手を結ぶのはワシも気に入らんな」
なまはげの冽も不満を漏らす。
「話は最後まで聞きなさいよ。日隠村と組むのが嫌なら百鬼夜行の底力を見せろって言おうと思ってたのに」
幽吹が不満気に言うと、騒ぎ立てた妖怪達が目をそらす。
「とにかく話はこれでおしまい。散開!」
「あっ、そうだ! これ新調した百鬼夜行の旗ね! 銀竹ちゃん、異香ちゃん手伝って!」
「気付くのが遅すぎますわ!」
嵐世、銀竹、異香が大急ぎで大量の旗を配る。
百鬼夜行の文字が刻まれた旗印。
妖怪達はそれを担いで散り散りになっていった。
「蛭子、海尊、連中を頼むわね」
「うん。任せておくれ」
島から離れる時が一番危険だった。嗅ぎつけたイナノメ軍がどこかで待ち伏せしている恐れがある。だからこそ、海の近くなら無敵の蛭子と海尊に目を光らせて貰う。