影霊 イナノメの章 6

俺と逢魔が話しながら、食事の用意を進めていると……
「そう言うあんたはどうして司にくっ付いてるのかしら?」
幽吹が窓の外から顔を覗かせた。外から聞こえていたようだ。
「おい、盗み聴きしてんじゃねぇ」
「あんたの声がでかいから嫌でも聞こえるのよ」
「盗み聴きしてる暇があるならお前も手伝いやがれ」
「いいわよ」
幽吹は素直に厨房に乗り込んできた。
「で、何であんたは司にくっ付いてるの?」
食事の用意を手伝いながら、改めて逢魔を問い詰める。
「綾乃の奴に封印されてた俺様を解放してくれたからな」
「でもそれって、綾乃も織り込み済みだったんじゃないの?」
幽吹の言うとおりだ。全て綾乃の計画だろう。
「例えそうだろうと、俺様は司を気に入ったからな。どこまでも付いていくぜ」
「だから、どこが気に入ったの?」
追及を緩めない。
「ただ、解放してくれただけじゃねぇ。司は、俺様みたいな霊の事もちゃんと見てくれる」
それは……俺にとって、逢魔が少し見慣れない霊だからっていうのもあるけど……
「お前達妖怪は、俺様を馬鹿にするだろ?」
「そうね」
キッパリと言い切る幽吹。容赦が無い。
「俺様は、俺様が何者か分からねぇ。記憶が殆ど無いんだ。だからよ、他に居場所が無いわけだ。だったら俺様を馬鹿にする事の無い司と共に戦ってた方が、楽しいだろ?」
そう言ってくれてるところ悪いけど、俺は逢魔の事を全く馬鹿にしてないわけではない。まぁ、他の妖怪に比べたら逢魔に対する評価は高い方かもしれないけど……
「良い事言うわね。ここにきて初めて見直したわ」
褒めているのか、貶しているのか。判断の別れるところだ。
「ケッ」
逢魔の前にある鉄板の熱が上がった。貶されたと捉えたようだ。暴れ出さないだけマシか。
「あれ? 私には訊かないの? どうして司に付きまとうのかって。気になるんでしょ?」
聞いて欲しいのだろうか。
「あ? お前の言う事は信用できねぇ、訊くだけ無駄だ」
やはりどうも逢魔は幽吹の事が気に入らないみたいだ。綾乃の事も嫌ってるし、女性が苦手なんだろうか。俺も苦手な方ではあるが……
「おお、食事の用意をしていたのか」
あらかた料理が出来上がると、儀右衛門が食堂車に姿を現わした。
「酒を持ってこよう。ワシにはそれくらいしか飲食の楽しみが無いんでな」
小箱が本体の儀右衛門は食べる事が叶わない。
それにしても……白昼堂々、飲酒運転宣言か。妖怪だから良いのかな……妖怪にとってお酒って、霊力の濃い水みたいなもんなんだろうし……

#小説 #ヨアカシの巻 #イナノメの章

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