影霊 キの章 13
風尾と逢魔が傷だらけで帰ってきた。
逢魔の手にはバラバラになった、からくり人形の頭部と胴体。
風尾は小さな弓矢と歯車等の人形の細かいパーツを風の籠の中に閉じ込めていた。
「こいつ、めちゃくちゃ抵抗したんだが……腹立つぜ」
「どうしようもないから、分解しちゃった」
壊しておきながら、全く反省の弁は無い。本当に苦戦したんだろう。
対する儀右衛門は……
「おお! よくそいつを持ち帰ってくれた!」
小躍りしていた。一つも怒ったりしてない。
「バラバラになったけど、大丈夫?」
風尾が訊く。
「問題無い! ワシの手にかかれば直ぐに元通りだ!」
儀右衛門は二人が持って帰ってきたからくり人形のパーツをかき集めて作業を始めた。本当に忙しいなこの妖怪は。
「びっくりするくらい強かったんだよね……あのからくり人形」
「少し休むぜ」
「お疲れ様」
風尾と逢魔が俺の近くでへたり込んだ。
「儀右衛門、そのからくり人形は?」
恐るべき速さで人形を組み立てていく儀右衛門に訊く。
「こいつか? 【弓引き童子・検非違使】ワシの数あるこれくしょんの中でも、最高くらすの一品だ。こいつが帰ってきてくれたのはありがたい!」
人形の身体が組み上がっていくに連れて、からくり人形はカタカタと動き始める。
「こら! まだ動くな! ワシが直しとる最中だろうが!」
なかなかの聞かん坊なようだ。
「ふむ……幾つかのパーツは壊れてしまったか。直ぐに乗り換えるわけにはいかないな。回復を待たねば」
ぶつぶつと呟く儀右衛門。
「乗り換えるって……今の青狸の身体から、そのからくり人形に?」
「そうだ。この胴体の部分に、ワシの本体である箱を入れる」
からくり人形の胴体には、四角い箱をはめるスペースが用意されていた。
「へぇ、その人形を自在に操れるなら、さぞ強いんだろうね」
「そうとも。まぁ、面倒な手順が多すぎて、あまり実戦には出れんがな。ははは」
風尾の言葉に儀右衛門は笑って返す。
この前の戦にも間に合わず、屋敷を全焼させる羽目になったからね。
「弁慶、お前は機関車の修繕中か」
「ああ。お前も少し手伝え」
「もう少し休ませてくれよ」
逢魔が作業中の弁慶に話しかける。
「機関車といえばさ……この村に普通の線路を引いて、初瀬号を走らせるなんて事はしてないんだよね。どうして?」
何となく気になって聞いてみた。村を一周する路線なんてあれば楽しそうだ。乗客がいるかは知らんけど。でも、幽霊機関車を走らせるという目的はひとまず達成できるのでは。
「ワシも同じような事を考えた事はある。しかし、いくら幽霊機関車、妖怪と言えど、蒸気機関車は近代における人類の産業革命の象徴だ。それが堂々と村の中を走るのは、鬼や天狗に反感を抱かれる恐れがある……と、綾乃に言われたのだ」
「鬼や天狗の中には、あまり人間をよく思ってない奴らがいるからね。河童は全体的にわりと理解があるんだけど」
風尾が言う。
「ワシも四獣神や鬼然、嵐世、銀竹のようにこの村を離れる事を幾度と無く考えた。しかしな、幽霊機関車を日本中走らせるという夢を叶える為には、この村で司くん達の協力を得る事が不可欠だったのだよ。だからワシは今この村にいる」
儀右衛門の言葉を聞き、吉田と桐竹を握る手に力が入った。