影霊 キの章 2
「で、手伝って欲しいことって、何?」
青い狸の姿にばかり気を取られてしまった。本題を聞こうか。
「うむ。良くぞ聞いてくれた。だが、言って聞かせるよりも、実際に見てもらった方が早い。少し場所を移させてくれ。もう一つ、ここより更に大きな蔵をワシは持っているのだ」
来たばかりなのに、更に移動するのか。最初からそこに集合で良いじゃないか。
そう思いながら俺と逢魔は蔵から出る……だが、儀右衛門が付いて来ない。
「儀右衛門? どうしたの?」
「……司くんか逢魔くん。申し訳ないが、ワシを持ち上げて貰えるかな」
足が短いから、歩くのが遅すぎる。おのれ青狸。
俺は儀右衛門を抱えて歩いた。
「ここだね。大きいというか、長い」
徒歩で数分、目的の蔵に到着する。
「鍵がかかってるぜ。壊してやろうか?」
大きな両開きの扉には、鍵がかかっていた。
「逢魔くん。君は触らない方が良い。いたずら好きな霊除けのお札が貼ってある」
そんなものがあるのか。俺も何枚か欲しい。
「ワシを鍵のところに」
青狸の手が鍵に触れただけで、錠が外れる音がした。これは便利だ。
そのまま扉に触れ続けると、大きな扉は勝手に動き、開いた。
蔵の中に仕舞われていたものが、露わとなる……
「これって……蒸気機関車って奴!?」
鋼鉄で作られた筒状の顔がまず目に入った。漆黒の無骨なボディ。あまり電車とかに興味はないが、蒸気機関車はかっこいいと何となく思う。
「そうとも。しかしただの蒸気機関車ではない、これは……幽霊機関車だ」
青狸がドヤ顔で言った。
「つまり、妖怪なの?」
「うむ。蒸気機関車が付喪神と化したものだな。線路の上に置いて、水さえ入れてやれば霊力で勝手に動き出す」
「へぇ。で、この幽霊機関車が、儀右衛門の頼みにどういう関係が?」
「ワシはこの幽霊機関車、ひとまずえすえる初瀬号と名付けたのだが……この初瀬号を走らせてやりたいのだ」
なら線路の上に置いて、水を入れたらいいんだよね。
「しかし、昔とは違い、人間が敷いた線路は今、絶えず電車が往来している。とても快適に走らせられたものではない」
緻密なダイヤに沿って運行してるって聞くしね。そもそも線路が対応してるのかどうかは知らない。幽霊機関車だからその辺は自力で何とかしてくれるのかもしれないけど。
「ワシはこの初瀬号を日本中ですとれす無く走らせてやりたいのだ。その為に、司くんと逢魔くんに来てもらった」
「うん……でも、俺と逢魔が呼ばれた理由がまだ分からない。何すればいいの?」
「一言で言えば……司くんは線路。逢魔くんは初瀬号の能力をふるに引き出す、石炭の役目を担って貰いたいのだ」
逢魔が石炭っていうのは、何となく読めた。ボイラーに突っ込んで、蒸気を上げさせたいのだろう。幽霊機関車が自力で走るよりも、早く走るのかも知れない。
しかし、俺が線路というのは……
「陰力で、線路を形成して貰いたい」
青狸よ、簡単に言ってくれるなぁ。