影霊 九の章 26

この戦いも終盤。
俺は最後の切り札を使った。
村のどこか、遠くから汽笛の音が聞こえる……
「……司、何をしたの?」
母が訊ねる。教えるわけないじゃない。
「何なの? 今の音」
幽吹までもが首を傾げる。
「俺はもう、動けないから、後は任せたよ。みんな」
「はぁっ!? それはもう負けを認めたようなものよ!」
幽吹が叫ぶ。
良いんだよ。別に母に勝とうと思って戦ってたわけじゃないし。
「……何か、近付いてる」
母が感付く。
そうとも、近付いている。
精密に働く機関の音……噴き上がる蒸気の音が……
「司くん! 待ち侘びたぞ!! 塵塚怪王の儀右衛門! 参戦致す!」
もう聞き慣れた老人の声と共に姿を現したのは、黒い煙を吐き出して走る黒鉄の巨大なカラクリ……
幽霊機関車の初瀬号である。
先頭車両に取り付けられたツキヒの武器、火縄銃の吉田と桐竹から、影の線路が引かれていく。
「蒸気機関車!?」
母が驚く。
「……ありゃあ、幽霊機関車だね。いくら妖怪でも、あんなものを整備できるのは儀右衛門だけだよ」
解説する空。付喪神の中でも長生きなんだろう、流石によく知っている。
「でも、線路無しで、走れるの!?」
母はまだ驚いている。
「よく見な月夜。先頭にくっ付いてるあの火縄銃……付喪神化した吉田と桐竹だ。あれが線路を引いてる。きっと、司くんの陰力だね」
やはり冷静だ。あんまり簡単にバラされると、困っちゃうけど。
「御影月夜! いざ勝負!」
屋敷を取り囲むように走り続ける初瀬号の上に乗るのは、弓を引く大きなからくり人形……もう青狸ではない。儀右衛門は、バージョンアップしたのだ。
「私と、弓矢で勝負するの?」
鼻で笑う母。
「油断するんじゃないよ月夜!」
空が叫んだ途端、母の足元に一本の矢が突き刺さった。
「……謝るわ。ごめん」
「いざいざ!」
装甲車両の屋根の上で、踊るように弓を射るからくり人形……
「あれは【弓引き童子・検非違使】さ! 強いよ! 気を付けな!」
空が母にアドバイスする。
儀右衛門対母の弓矢対決が始まった。
「……司、儀右衛門と知り合いだったの?」
役割を終えた幽吹が俺の隣に歩いてきた。
「ああ、あの幽霊機関車を動かすために手伝ってくれって頼まれてね」
「なるほどね……私が居ない間も、頑張ってたんだ」
「まぁね。風尾も、弁慶も、そして逢魔も……あっ、逢魔は今まさに頑張ってくれてるよ」
「逢魔が……?」

#小説 #九の章

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