影霊 ガリョウの章 11

「やっぱり、百鬼夜行を動かすのね」
「その時が来れば、勝手に動くものよ。私は軌道を描いてやるだけ」
大広間での話は、これからを見据えたものに移り変わった。
母の言葉に受け答えする幽吹。彼女の態度も先ほどとは一転して自信に満ち溢れている。
いつもの幽吹だ。
「私的に利用するために動かした事も、何度かあったのではなくて?」
指摘する銀竹。
「え? それは司を守るためであって私的利用じゃ……っ! いいえ、銀竹の言う通り。私的利用もあったわね」
否定するのかと思えば、すぐに私的利用だと認めた。
素直なのか? いや違う、何か邪な思惑を感じる。
「……はいはい。とにかくこれから大変になるわね。お互いに」
母は少しうんざりしたような顔をしたが、気を取り直す。
お互いにって事は……
「母さんも、イナノメ軍に対して何か行動を?」
「……前回の戦いで、敵方はこの村も襲ってきた。私達御影の人間も備える必要はあるわ」
まるで実際に体験したかのように言う。
今までに二回イナノメ軍との争いは起きたと聞いた。だとしたら二度目の戦いは最近の事なのかも。
「イナノメ軍は基本的に全ての妖怪を敵視してるけど、優先度はあるみたい」
幽吹が言う。
「アラサラウスは高かったのかな」
いきなり狙われてたわけだし。
「でしょうね……でも、もっとその優先度が高い存在がいる。それは百鬼夜行の主導者である私や、銀竹や嵐世のような百鬼夜行の各隊列を統率する妖怪であったり、あるいは……」
幽吹の目線は、俺から母に移り、そして再び俺へと戻った。
つまり……
「あなた達、御影家の人間ね」
幽吹の代わりに、綾乃が言った。静かに、だが少し不敵な笑みを浮かべて。
やはりそうか。予想はしていたが、いざそう言われると少し不安になる。
「でもこの村にいる間は安全よ。だから、私が戻ってくるまではここにいてね」
俺は頷いた。
下手に動くのは止そう。それが幽吹の為にもなる。
「八房、司を任せたわよ」
「任せろ」
畳に臥せて話を聞いていた八房が、幽吹の声で立ち上がる。
「俺様にも任せとけ」
呼ばれてないのに出てくる逢魔。
「ま、頑張りなさい」
幽吹から出たのは激励の言葉。
任せるとまでは言わなかったが、それなりに信用するようにはなったようだ。
「何かあれば遠慮無く私に言いなさい。今のあなたは村の一員なのですから」
「……そうさせて貰うわ」
日隠村の村長の言葉に応える百鬼夜行の主導者。
「なぁ、お前のお袋さんと幽吹は協力しないのか?」
逢魔は静かに訊いてきた。そんなの俺に訊かれても分からないんだけど……
「さぁ……目的は同じなんだから、協力できるときは、するんじゃないの?」
「そうだよな」
母は御影家の人間として戦う。幽吹は百鬼夜行の主導者として村の外の妖怪達と共に戦う。その機会は少ないのかも知れないけど……
「何でそんな事訊くの?」
「いや……何でだろうな。少し違和感があってよ」
違和感……?
そう言われてみれば、確かに……
母は幽吹に、お互い大変になると言っただけだ。綾乃は幽吹に対して協力的な態度を取ったけど、母はそうでもない……ような。
気のせいだろうか。

#小説 #ヨアカシの巻 #ガリョウの章

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