影霊 ガリョウの章 10
屋敷に戻って数分後……
我が母、御影月夜の前で幽吹は正座させられていた。
北海道で起こったことを全て、幽吹が母と綾乃に打ち明けた結果である。
「あなたと儀右衛門がいながら司を危険な目に遭わせるなんて」
侮蔑とも言えるような冷たい視線を幽吹に向ける母。
「嵐世がいたのなら、雲の上に一時避難させとけば良かったわよね?」
「そう……ね。考えが及ばなかったわ」
幽吹は項垂れ、反省の弁を述べるばかり。普段の自信に満ちた態度は何処へやら。
他方、母の友人達の反応は様々だ。古空穂の空は基本的に無言を徹しているが、時折母以上に厳しい言葉をぼやく。大首の市おばさんは母を「まあまあ」と宥める。妖狐の崎さんは終始クスクスと笑っていた。
イナノメ軍の出現、それに伴うアラサラウスの暴走……想定外の事態が連鎖した末に起きた不幸な事件であり、幽吹を責めるのは少し筋違い……
そう思ってはいるのだが、俺に発言権は無かった。幽吹からは何も言うなと釘を刺され、幽吹の隣で自分にも責任はあるとばかりに正座する銀竹からも「ここは、お母様の顔を立てるのが一番ですわ」と事前に諭されていた。
つまり、俺が口を出せば余計話が拗れるということらしい。大人しくしておこう。
「や〜い、怒られてやんの」
嵐世が囃し立てる。
この妖怪にも多少責任はあるのだが……一旦木綿の召喚術が役立ったということで不問とされていた。
「儀右衛門は運が良かったな」
逢魔がケケケと笑う。
儀右衛門も幽吹と同様に、母からの信用を裏切ったと言える妖怪の一人なのだが、この説教の場にはいない。ひがくれ号の整備で車庫に残ったからだ。整備が終わればやってくるかもしれない。
「また蒸し返されたら堪らないからね……儀右衛門に関しては許して貰えるように俺から上手く言っとくよ」
身を呈して戦ってくれた儀右衛門まで説教を受けるのは、流石に気の毒だ。
「月夜、この辺りにしておきましょう?」
今までは傍観に徹していた綾乃の一声。
「……そうね」
長々と続いた説教が終わりを迎えた。
「銀竹、ありがとう」
「お互い様ですわ」
正座の痛みを分かち合った二人が声を掛け合う。
美しき友情。
そう思っていると、崎さんがクスクス笑いながら近付き、耳打ちしてきた。
「あの二人……正座してると見せかけて、浮いてましたよ。銀竹の霊力で」
前言撤回。あの二人の友情は薄汚れている。