影霊 九の章 2

「幽吹だけじゃなく、他の妖怪に手を貸してくれるよう頼んでもいいのよ」
綾乃が言う。
「それなら……」
儀右衛門なら頼めば共に戦ってくれるだろうが、彼は非常に忙しくしている。たかが模擬戦に駆り出すのは少し申し訳ない。
暇そうにしている妖怪……
「八房は? 頼んでもいいの?」
「もちろん。向こうもキツネがいるわけだしね」
四獣神の中で一番暇なのは八房だ。頼めば力を貸してくれるかもしれない。
「それじゃあ、探してみるか」
逢魔と手分けして八房を探す事にした。
俺は屋敷の周辺。
逢魔は上空からキツネ岬周辺。
「それじゃ私は模擬戦を主催するにあたって、いろいろ準備があるから」
綾乃はそう言って、召喚したフクロウに乗ってどこかに行ってしまった。

屋敷周辺を数分歩き回って探すが、あの大きな黒いイヌの姿は見当たらない。よく暇そうに屋敷の周りをウロウロしてるのを目にするんだけどなぁ。
「あれ〜? 司くんだ」
頭上からふわっとした女性の声が聞こえる。
見れば、鮮やかな色を放つ小さな雲に腰かけて飛ぶ、白い衣を身に纏った女性の姿の妖怪がいた。
天邪鬼の長、天逆毎の嵐世だ。山陰の幽吹に並ぶ実力者とされ、霊雲の嵐世の通り名を持つ。
「あっ、こんにちは嵐世さん」
「こんにちは〜。私の事は、嵐世で良いよ。それにしてもまだ幽吹ちゃん帰ってこないみたいね。私も寂しい」
まず幽吹の事を聞こうと思ったが、この妖怪も詳しい事は知らないのか。
なら、もう一つ聞きたいことがある。
「八房知らない?」
「八房? あれ〜。そう言われれば、この近くにいないみたいね。あの子までどこ行っちゃったんだろう」
どうやら八房まで村から姿を消してしまっているらしい。どうなってるんだ。
「司くんは、どうして八房を探してるの?」
嵐世が聞いてくるので、事情を説明する。
「へぇ〜、模擬戦か。綾乃も考えたね〜。どう? 私が力を貸してあげようか?」
「えっ、本当に?」
思ってもみなかった提案。幽吹に並ぶ実力者が手を貸してくれるならありがたい。
「でも、私の戦いは荒っぽいからね〜。怪我人がたくさん出るかも。それでもいい?」
たかが模擬戦で大荒れ模様にされるのは困るかもしれない。模擬戦の趣旨を考えよう。
「それと、私が手伝う場合は、後でいろいろと見返り欲しいかなぁって」
色っぽく言う嵐世。
注文まで多いときたか……
「……今回は遠慮しときます」
「そう? 残念。それじゃまた今度ね〜」
そう言いながら嵐世は手を振って飛んで行った。
最後の方はただからかわれていただけかも知れない。

#小説 #九の章

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