影霊 九の章 17

「『墨連雀』!」
俺が勝つ条件は、母に攻撃を三発当てる事。
小さな鳥を多数発動すれば、母も対処出来ないんじゃないかと思った。
だが、その考えは甘かったみたいだ。
「『月輪』」
母は、ゴムの鏃が付いてない矢を空から取り出し、それに影を纏わせて放った。
弓に纏った影は、空中で展開され、高速回転する輪となった。ある程度自在に動かせるようで、影の輪は、次々と墨連雀を打ち消していく……
ダメだこりゃ。
「……いったいっ!」
次々と消えていく墨連雀の間を縫って、母はゴムの矢を放ってきた。
俺の腹に直撃する。
これで5発目。5発中5発。100%の的中率だ。
「いててて……容赦ねぇ……」
「少し休む?」
もはや勝者の余裕さえ感じられる。
「そうだ……母さんの弓って、弦が無かったよね? どうやって矢を?」
時間を稼ぐために質問をする。
「こうやって……影の糸を張るのよ」
弓を横にして黒い弦を張って見せてくれる。
へぇ……何でも出来るんだなぁ。
「そして、こうしてここに矢をつがえて……」
あっ、まずい。
「放つ」
「いった!!」
6発目が脇腹に直撃する。
直前に横に飛び退いた筈だったのに、お見通しだったのか……それとも、ある程度操作しているのかもしれない。だって、みんなお腹に当たるんだもん。狙って出来る事じゃないでしょこんなん。
「くそっ! 負けてられるか! 『鬼叺』!」
地面を矢の如く泳ぐ魚類を三匹発動する。こいつは速いぞ。
「空」
「はいよ」
空は三本の矢を吐き出した。
母はなんとそれを三本同時に放ってみせた。
着弾地点には三つの影のサークルが広がる。
鬼叺がそのサークルに達すると、姿を消してしまった。
「ええっ、どこ行ったの!?」
「影の穴に落ちていったのよ」
「そんな……」
なんかもう、勝ち目無いよねこれ……
「あら、誰か戻ってきたわね」
俺が軽く戦意喪失していると、母が辺りを見渡してそう言った。
「お待たせしました」
「おかえり」
こちらに飛んできたのは、崎さんだった。やはり風尾と逢魔は勝てなかったか……だが、時間は稼いでくれた。残念な事に、その時間で俺は何も出来ていないが。
「どうだった?」
母が崎さんに訊ねる。
「どちらも戦っていて楽しかったです。特に鎌鼬の風尾さんには、一太刀浴びせられました」
「大丈夫?」
「ええ、直撃ではありませんでしたから」
風尾と逢魔は、よく戦ってくれたようだ。
「二人とも、倒しちゃったの?」
俺は崎さんに訊く。
「風尾さんはもう戦えないでしょうね。逢魔さんは……姿を見失ってしまいました。ここに来ていると思っていたんですが……」
そうか。逢魔はまだ動けるかもしれないのか……鬼玄との戦いを思い出す。あいつは最後にちょっとだけ力を貸してくれるのだ。
「あの霊、何か企んでるのかしら」
「だとしても、ダメージを負っています。大した事は出来ないかと。不意打ちには警戒しておきます」
「そう、お願いね。司、そろそろ再開しましょうか、」
母はそう言って弓を構えた。崎さんは母の後ろに控えて見ているだけだ。

#小説 #九の章

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