影霊 キの章 16

試行を重ね続けることにより、幽霊機関車初瀬号が走る線路を陰力で形成する事は出来るようになった。
あとは、どれだけ正確に平行な二本の線を引くかだが……これは俺に考えがある。
「車両の先頭に、吉田と桐竹を取り付ければいいんじゃない? 銃口を地面に向けて」
「なるほどな」
吉田と桐竹の動きをシンクロさせながら、線路を描けば平行かつ滑らかな直線が描けるのではないだろうか。
「でも、一度列車が揺れたりしたら、線路もぐちゃぐちゃにならない?」
風尾が懸念する。
確かにそうなるな……
「それは付喪神である吉田と桐竹の力と、ワシが初瀬号を制御することで調整するとしよう」
儀右衛門の塵塚怪王としての力の見せ所か。
「ようやく俺様の出番だな」
石炭の役割を担う逢魔が張り切る。
「まぁ落ち着け、しばらくは初瀬号の力だけで走らせたい。いきなりとっぷすぴーどは出せないからな」
初速はゆっくり、速さを上げる時には逢魔の力が必要になるということか。
「では、てすと走行と洒落込もう」
後続車両の改修、増設も終わった。客車、貨物車の他に、儀右衛門の作業車両や、寝台車両といったものが作られ、自在に組み替える事が出来る。
儀右衛門、俺、逢魔、風尾、弁慶は初瀬号に乗り込む。
儀右衛門が運転室に入り、機器に触れると、蒸気機関車を構成するカラクリが動き始めた。
両脇からは白い蒸気が噴射される。
「良い調子だ。惚れ惚れするな……司くん、線路を引いてくれ」
俺は刀、叢影を手にして集中した。
叢影と吉田・桐竹は連動させる事ができる。吉田と桐竹が付喪神だからだろうか。そのお陰で、火縄銃を直接手にしていなくとも、火縄銃から陰力を発動させる事が可能となっている。
先頭に取り付けられた二丁の火縄銃、吉田と桐竹が黒い影を発射する。角度を上げることで、影の線路は蔵の外まで敷かれた。
「よし、発車だ」
蒸気が大きく上がり、車輪が動き始めた。初瀬号が元々乗っていた鉄の線路から、俺の引いた影の線路に乗り移る。
「……問題ないな! よくやってくれた司くん!」
影の線路はうまく機能しているみたいだった。
正直言って、線路を上手く作れたのは、俺の力よりも吉田と桐竹の実力あってのものだと思う。なぜなら叢影では同じようには作れないからだ。付喪神と化した火縄銃が、協力してくれたお陰だ。
「よし、でーたは取れた。あとは微調整をする必要があるな」
蔵の外までゆっくりと出たところで、初瀬号の動きは止められた。
「もう終わりかよ」
逢魔がつまらなさそうに言う。
「今日はな」
多少走っただけでも、儀右衛門には初瀬号の調子が分かるようだ。すぐに調整に取り掛かりたいらしい。
初瀬号を後退させ、蔵の中に戻る。
「弁慶くん。少し手を貸してくれ、この接続部分の具合が悪いようだ」
儀右衛門と弁慶は車両の整備に取り掛かる。
逃げ出した付喪神も殆ど連れ戻したみたいだし、儀右衛門のプロジェクトも大詰めだ。
そう感慨深く思っていると……
「司。少しいいかしら」
綾乃がやってきた。

#小説 #キの章

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