影従の霊鬼夜行 逢の章1
俺は今、島流しにあっている。陸の孤島への島流しだ。二十歳にも満たない少年に過酷な刑を命じたのは幕府の将軍でも、国家権力でもない。実の母親である。一体何をしでかせばこの様な目に遭うのか、実のところ特に何もしていない。母の無償の愛がそうさせているのだという。
追放される場所の名は初瀬村。しかし、インターネットで調べてみても、初瀬村という地名は現存していない。かつて存在していたとされる場所も関係無いようだ。どういう事だろう。
一生懸命調べてみるが、手がかりは何も見つからない。携帯情報端末のバッテリーが消耗するばかりだ。俺は諦めて電車の揺れに身を任せる事にした。
「久しぶりねー。ようこそ遠路遥々初瀬村へ」
漂着を出迎えてくれたのは、初瀬村村長を名乗る背丈の高い女性。名を四方裏綾乃(ヨモウラ アヤノ)という。俺の母親の親友で、俺自身も何度か会っているが、こうして一対一で顔を付き合わせるのは覚えている限り初めての事だ。
それにしても……とても母と同年代とは思えない程若く見える。母にバレたら殺されそうな感想だが、以前会った時はこういう視点で人を見る事は無かった。これが人間の成長か……
「お久しぶりです。あれ? ここが初瀬村なんですか?」
村長と落ち合ったのは、初瀬村の最寄り駅である。駅名に初瀬の文字は無い。
「初瀬村は車でもう少し走ったところね」
綾乃は寂れた駅のロータリーに停めてある愛車と思しき自動車を指差した。
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