影霊 九の章 14
崎姫と戦う風尾と逢魔は、防戦一方であった。
「逢魔! また来た!」
「おう! 『鉄火拳』!」
崎姫の炎による攻撃は、逢魔が何とか打ち消せるが、それと同様に逢魔の炎の攻撃は崎姫に通用しない。
「『白鎌颪』!」
「……そろそろ限界が見えてきましたね」
風尾は一瞬の隙を突き、尻尾を変化させた鎌を振り下ろすが、崎姫はそれを片手で受け止めてみせた。
「くっ……!」
崎姫の放った炎により、風尾が吹き飛ばされる。
「おい! 大丈夫か!?」
逢魔が片手で風尾を受け止めた。
「……やばいかも」
「なら、次の作戦か?」
逢魔と風尾がこそこそと話し合う。
「作戦……? 何か隠しているのですか?」
崎姫が首を傾げる。
「おい、やばいぞ。あいつ気付きやがった」
「逢魔が口に出すからじゃん! 馬鹿!」
風尾が怒る。
「……少し不穏ですね。一気に終わらせてしまいましょうか」
作戦という言葉が気になった崎姫は、この鎌鼬と霊を一刻も早く戦闘不能にしてしまおうと考えた。
「『九火』」
九本の尻尾を風尾と逢魔に向ける……
「俺様に炎は効かねぇ!」
鎖を拳に巻き、風尾の盾になろうとする逢魔。
「この炎は今までのものとは別物です」
白い炎が尻尾から発射される。
「『鉄火拳』!」
逢魔の拳が受け止める。
しかし、炎は拳により打ち消される事なく、逢魔を襲った。
「ぐおっ!! 何だこの炎……!!」
逢魔は白い炎に包まれ、大きなダメージを負った。
「逢魔!」
風尾が叫ぶ。
「……確かにただの炎じゃねぇ、とてつもない量の霊力が含まれてる。炎というより霊力による攻撃だ。これは俺様に効くぜ」
逢魔はふらつきながらも何とか体勢を保った。
「あら。今の技を耐えますか。丈夫ですね」
崎姫が関心する。
「確かに、これじゃ勝てねぇな風尾……」
逢魔も殆ど負けを認めた。
「……うん。だから言ったでしょ。ぼくらに出来ることは、崎さんを足止めする事だけだって」
「ああ。だが、足止めもこれ以上は難しそうだぜ」
崎姫は、再び尻尾を二人に向けていた。
「……仕方ない。あの技を使うよ。一矢報いたいからね」
風尾は尻尾の変化を解き、ただの白い獣の姿になった。
「何か隠してたのか?」
逢魔が訊くが、風尾は霊力を集める事に集中する。
「……これがぼくの作戦さ!」
作戦、その言葉に崎姫が反応し、様子を伺う。
「全霊変化『カミカゼ』!!」
風尾の身体全体が変化を起こす。
あたりの空気が風尾に集まり、凝縮される。
現れたのは、一本の巨大な大鎌。
長い柄の先には、大きく曲がった白い刄が伸びていた。
「……なんて霊力」
崎姫が呟く。風尾の変化に目を奪われている。
「おお! 切り札って奴だな! すげぇぞ風尾! やっちまえ!」
逢魔が興奮する。
だが、全身を大鎌に変化させた風尾は動かない。むしろゆっくりと地上に落下しつつあった。
「……あっ、ごめん。ぼく、霊力を制御するのに手一杯だからさ……逢魔、ぼくを崎さんに向けて振ってくれる?」
大鎌から苦しそうな風尾の声がする。変化を維持するのがやっとなのだ。
「おっ! 俺様が振っていいのか!? 普段鎌なんて使わねぇから、やり方わからねぇが、任せろ!」
「一度きりだから慎重にね!」
逢魔は嬉しそうに大鎌の柄を握った。
「いけない!」
ハッと我に返った崎姫が逢魔に向けて突進する。鎌を振らせる事を許さない。
「来たぜ来たぜ!!」
逢魔は大鎌を崎姫目掛けて振りかぶった。
「『九火』!」
間に合わない。とっさに判断した崎姫は白い炎を発した。
「今だよ!」
「オラァッ!!」
大きく振り払われた大鎌、カミカゼの斬撃は、直線上にある空気を切り裂いた。
その周囲も荒れ狂う風が襲う。
崎姫が発した炎は、カミカゼによって掻き消された。
「そんな……!」
逢魔の鎌を扱う技量が低かったせいもあり、カミカゼの斬撃は崎姫からは大きく外れていた。
しかし、崎姫は荒れ狂う風に耐えられず、大きく吹き飛ばされる。
「……下手だね」
「あ? 仕方ねぇだろ。次は弁慶に頼むんだな。でも、あの狐どっかに飛んで行ったぜ」
鎌鼬の姿に戻った風尾は、ぐったりしながら逢魔に文句を言った。
「ぼく、もう動けないから、あとは頼んだよ」
「任せろ!」
逢魔は作戦に向けて、霊力を使い果たした風尾を置いて場所を移す。
崎姫は風によって大きく離されていたので、逢魔の動きを追うことは出来なかった。