影霊 九余半の章 3
屋敷の大広間では綾乃と儀右衛門が話していた。
「あなたがここに来るのって、随分と久しぶりね。懐かしいわ」
「おお、確かにそうだ」
儀右衛門は初瀬号から取り外された火縄銃、吉田と桐竹を見る。
そうか。親友だった御影綱重がこの村に居た頃は、儀右衛門もこの屋敷に居たのか。
俺が大広間に足を踏み入れると、儀右衛門の周りにいた吉田と桐竹が近づいて来た。
「ありがとね。力を貸してくれて」
初瀬号を動かせたのは、吉田と桐竹のお陰だ。
俺は二丁の火縄銃を撫でる。
「幽霊機関車って、儀右衛門の車庫から出てきたのよね。よく司の陰力が届いたものだわ」
綾乃が言う。
確かに俺の陰力が耐えうる範囲は、100m前後が限界だった。だが、吉田と桐竹は、それ以上離れた距離からでも陰力が発動できた。その理由は……
「何となくだけど、この刀叢影と、吉田と桐竹が連動するような感覚があったんだよね」
糸が繋がったような、そんな感覚。
叢影を動かせば、吉田と桐竹も動く。
「ツキヒの武器同士の連携……? そんな例、今まで見たことないわよ」
「恐らく幾つかの条件が重なった結果だろう。まず吉田と桐竹はワシの霊力、影響力により付喪神化している。そして、吉田と桐竹は司くんに懐いておる」
儀右衛門が推測した。
「……ツキヒの武器の付喪神化自体、イレギュラーだからね。もしかすると……司の影響力が及ぶ範囲なら、吉田と桐竹は陰力を発動できるのかも知れないわ」
儀右衛門が「いれぎゅらー」と、小声で呟く。こいつカタカナ言葉好きだな。
「それはつまり、俺の陰力の及ぶ範囲は狭いけど、影響力の及ぶ範囲は広いって事?」
「そういうこと。まぁ、それは基本なんだけど。あら、教えてなかったかしら」
教えてもらってない。
陰力と影響力の違いは少しややこしいが……
陰力は、俺が影を使って、連雀や穿山甲といった生物をモデルにした技を発動するための力。線路を引くのも、この陰力によるもの。
影響力は、基本的には他の妖怪の力を増強するものらしい。
それでもって、吉田と桐竹は自身が付喪神……つまり妖怪でもあり、陰力の塊でもある。だから、俺の影響力が及ぶ範囲内にいれば、線路を引くための陰力が発動できたという事か。
まだあくまでも綾乃の仮説だけど。