影従の霊鬼夜行 幽の章 1

綾乃、弁慶、逢魔の三人は縁側で晩酌を始めた。
逢魔が酒を口に入れると、霊体が燃え上がり、それを見た綾乃が爆笑する。綾乃の笑いのツボが分からない。
火達磨になった逢魔も最初は驚き、池に飛び込んで消火していたが、その内慣れたようで気にせず酒を飲み進めた。赤々と燃え続ける逢魔。そんなにアルコール度数が高いのだろうか。あるいは霊にとってお酒は特別なものなのかもしれない。
「……俺は先に寝るぞ」
「笑いすぎてお腹痛い……あらそう? おやすみなさい」
考えてみれば昨日から殆ど寝ていない。限界だった。
「それじゃぼくも」
寝室には風尾が付いてきた。
「風尾もお酒飲めないの?」
「飲めないわけじゃないけど、司が飲まないなら別にいいかなって」
風尾は適当な場所で丸くなる。俺も布団に倒れこんだ。

翌朝、庭で倒れた逢魔と、縁側で眠る弁慶が発見された。
「今日は、三大勢力に属してない妖怪達のところに挨拶に行って貰うわ」
風尾と共に朝食の用意をしていると、自室から出て来た綾乃に指示される。
「はい、これが地図。任せたわよ風尾」
村の地理を簡潔に表した地図を寄越す。古民家のいくつかに印が付いている。ここに行けって事か。空家だと思っていた古民家には妖怪が住んでいるようだ。
村を取り囲む四方の山には、それぞれ地名が記されていた。クモの洞窟、カラスの大木。ヘビの瀑布。そして……
「あれ、キツネ岬ってのがあるけど。ここは?」
海や湖に面している訳でもないのに岬というのもおかしいが、何より他の地名は全て三大妖怪の拠点である。ということは……
「昔、そこもある妖怪が暮らしてたんだけどね。今では村の外に行っちゃったのよ」
「へぇ」
村の歴史や、妖怪の動きが感じられてなかなか面白い話だった。
「綾乃はどうするの?」
用意した朝食をつまみ食いする綾乃に、風尾が訊いた。
「少し村の外に出てくるわ。もしかしたら月夜と会うかも」
月夜とは俺の母の名前だ。
「母さんも妖怪や霊が見えてたんだよな?」
「そうね。というか、月夜言ってなかったの?」
言ってなかった筈だ。記憶の限りは。
「そう……何か伝えて欲しい事ある?」
「いや、特には……」
まだ三日目だし……と言いかけたが、それにしては内容が濃かった。ここで起きた事は、いずれ直接会った時に話そう。綾乃が勝手に話してしまうかもしれないが。

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