影霊 キの章 14

試行を重ねるうち、吉田と桐竹から永続的に影を撃ち続ける事が可能になった。
地面に撃つと、殆ど厚みは無いが、黒いペンで線を描いたように影が塗られていく。
「おっ、やるじゃねぇか司。もっと真っ直ぐ描けよ、脱線するぜ」
「あとは太さと厚みを持たせるだけだね。頑張って!」
「鋼鉄の塊がその上を走るというのだからな、耐久力も必要になるだろう」
逢魔、風尾、弁慶、みんな褒めてくれているんだろうが、ご丁寧な事に改善点も同時に突き付けてくる。俺だって分かっとるわい!
「もう一息だな。頼むぞ司くん」
弓引き童子に着付けをしながら儀右衛門が言う。
「ふぅ、疲れた。しかし、何で俺はここまで陰力の扱いが下手なんだろうね」
俺以外の陰力の使い手を、綾乃しか見たことが無いから、実際に比較は出来ていないが、誰に聞いても俺は下手くそらしい。
特に四獣神のイヌ、クモ、ヘビには修行をつけてもらう際に散々馬鹿にされた。
「どうしてだろうな……綱重も優秀な方では無かったが、司くんよりはマシだったか……」
長く生きている妖怪から見れば、俺はいつもこんな評価である。そこまで長く生きていなくても、母と比較されてこき下ろされる。
「でも、生物を精巧に作るのは得意じゃない。あれはすごいよ」
風尾が慰めてくれる。風尾は優しい。
生物だけは上手く具現化出来る……その理由もいまいち分からない。まず最初に作ったのは鳥だったか……もしかすると、四獣神全員と出会う事が出来たのが、俺の陰力に作用したのかもしれない。イヌの前任者、キツネの崎さんとも会っていたわけだし……
いろんな妖怪と出会う事が、何かのきっかけになるかもしれない。
しかしそうは言っても、すでに俺は結構な数の妖怪と出会っている。
四獣神だけじゃない、幽吹を始めとする四候。三大妖怪の大将。嵐世。そして綾乃……
まぁ、考えていても仕方が無い。少しずつでも線路作りは前進している。このまま試行を続けていこう。
「例えこの先何があろうと、ワシは司くんの味方だ。何でも頼ってくれ」
儀右衛門が静かに放ったこの言葉は、なぜか俺の耳に強く残った。
どうしてだろう。儀右衛門は、この言葉に何か含みを持たせている……?
まぁ、困った時には頼らせて貰おう。俺たちも結構な手伝いをしている。
儀右衛門の屋敷が消失した理由? 戦の助太刀をしようと急いだから? そんな事は知らん。儀右衛門の不注意もあるだろう。
「そろそろ夕暮れだぜ。帰るか」
「また明日来るよ」
今日のお手伝いは終了。また明日頑張ろう。何となく線路を作れるビジョンは見えた。

#小説 #キの章

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