影霊 キの章 8

今のところ俺が陰力で形成できるものは、どういうわけか生物だけである。
鳥の羽根先を鋭くしたり、鱗をより硬くしたり、泳ぐスピードを上げたり、そういった多少のアレンジは出来る。
それが出来て、いったいなぜ鉄の棒が作れないのか。理解に苦しむ。
「……巨大なナナフシを作って、足を切り落とすか」
なかなか残酷な発想に行き着いた。
「試行錯誤しているところ悪いが、線路の上を走るのは高速で走る機関車だ。並行した二本の線をすむーずに描く。そんないめーじで無ければ追いつかないだろう」
簡単に言ってくれる。
しかし、線路というのはレール二本セットで成り立つものだ。その事を失念していた。だが、一本作る事さえ出来ないのに二本なんて……
ん? 二本セット……?
「そうだ儀右衛門! 吉田と桐竹使ってもいい!?」
吉田と桐竹も二丁セットだ。
「構わんよ。ワシより君に使われた方が幸せだろう」
儀右衛門の許しも出た。
二本の線を描かなければならないと言うなら、発動させる武器も二丁あった方がやりやすい。
俺は吉田と桐竹を手にし、線路作りに取り組む事にした。
しかしこの日はもうタイムリミットが近い。逢魔、弁慶、風尾も逃げ出した付喪神を捕まえて戻ってきた。線路作りはまた明日。

「いやぁ、でっかい大砲みてぇな付喪神には苦労したぜ」
「へぇ、そっちも大変だったんだ」
御影邸への帰り道、逢魔が言う。
「しかし、儀右衛門の能力は凄まじいものがあるな。拙僧の他の武器も付喪神化して貰いたい」
「でも、あれって儀右衛門が触れて、なおかつその影響下にあるから付喪神になっていられるんだよね。今逃げ出してる付喪神も、時間が経つと元の古道具に戻っちゃうよ」
「その方が捕まえやすくて助かるぜ」
「確かにそうだけど……付喪神化が解けて、あんまり時間が経つと雨風で腐食しちゃうからね」
風尾の指摘は的確だ。付喪神探しの方は、あまり時間に猶予が無い。繊細な道具も多い事だろう。
「司、そっちの調子はどうなんだ」
逢魔が聞いてくる。
「まだ何も進展は無いけど、良い発見はあったよ。陰力の勉強にもなるし」
明日こそは何とかしてみせよう。
「何だ。顔を真っ黒にしてるからよ、さぞ仕事が進んだのかと思ってたぜ」
すっかり忘れていた。吉田と桐竹に煙幕をかけられた事を。
帰ったらまず風呂に入るか。

#小説 #キの章

いいなと思ったら応援しよう!