影霊 イナノメの章 銀竹の茶会 1

雪女の隠れ里に滞在中の幽吹と嵐世は、銀竹主催の茶会に出席していた。
「銀竹ちゃん。お茶が冷たい」
キンキンに冷えた湯呑みを口から遠ざける嵐世。
「たまには冷えたお茶も良いものでしょう?」
「いや、さすがに冷えすぎだよこれは。みぞれみたいになってるもん」
「あの喋る湯沸かし器はどこいったのかしら」
幽吹もまた冷気を発する湯呑みに手を付けていなかった。
「それ、逢魔の事を言ってらっしゃるの? 酷い言い様ですわね」
「逢魔くんなら、さっき司くんと温泉行ってたよ」
嵐世が答える。
「あらそう。なら私もこうしちゃいられないわね。お茶、美味しかったわよ銀竹」
「一口も飲んでないじゃん」
嵐世のツッコミを無視して席を立つ幽吹。
「覗き見ですか? 関心しませんわね……」
この場を去ろうとする幽吹を冷めた目で見送る銀竹。
「いや〜、あれは一緒に入るつもりでしょきっと」
「ちょっと! 幽吹! お待ちなさい! 破廉恥ですわよ!」
看過ならなかった。
「離しなさいよ! あんたに止める資格無いでしょ! お風呂入らないくせに!」
「冷水風呂には入りますわ!」
銀竹は幽吹を力づくで連れ戻してきた。
「怨むわよ銀竹」
「望むところですわ。里の子達の教育上許すことはできません」
「でもさ〜、雪女の子達も、お湯に浸かる訓練くらいはさせた方が良いんじゃないの? 雪女の死因で一番多いのがお風呂場での事故だったよね」
「それは多少の訓練で何とかなる問題じゃ……いえ、それとこれとは全く話が違いますわ! ワタクシは幽吹の行為が……」
「あー、わかったわよもう。今日は控えるから」
そう言いながら幽吹は渋々席に着く。
「いつも控えて下さい!」
「まだ機会はたくさんあるからね〜。儀右衛門の人形が治るまではここから動けないし」
カラクリ人形の体を纏わなければ、儀右衛門の操縦技術が発揮できない。
「嵐世、アナタの雲に乗れば良いのでは?」
「え、やだよ。あんな重たそうな機関車運ぶの」

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