影霊 ガリョウの章 6

「しばらく休憩にするわ。列車から降りて自由にしてても良いわよ」
ひがくれ号は時間的に人の入りが少ない道の駅に停車し、休憩時間とした。
「嵐世、念のため周囲を警戒しといてくれる?」
「うん。まかせて」
幽吹の指示で嵐世は雲に乗って空高く飛んでいく。
イナノメ軍が動き出した事が明らかになったので、用心するに越した事は無い。万が一にでも妖怪を認識できる、陽力を持った人間に鉢合わせたら大変だ。
「アラサラウス、アナタはこの列車の近くにいなさい。何かあれば、第一にワタクシか司くんに伝えること」
銀竹はアラサラウスに命令すると、ひがくれ号から降りた雪女達の監督に向かった。
「俺様は食事の支度でもするか」
逢魔は厨房に向かう。
俺も手伝おう。そう声を掛けようとした瞬間感じる背後からの気配。
「休憩の時間よ」
振り返ると幽吹がいた。

少しだけ休んでくる、そう逢魔に伝えて寝台車両の一室に入った。嘘はついてない。
「ハグ以外に何か方法は無いのかな」
陰力を分けて貰う。それ自体は今の俺にとって必要な事なのに、他人の目を気にしなきゃいけないのは、どうなのかなって……何だか悪いことをしているような気がしてしまう。
「えっ、もっと刺激的で、しっとりしてるのが良いの?」
「待って、違う、そうじゃなくて……」
顔が一気に赤くなっていくのを感じる。
「ふふっ、冗談よ」
意地の悪い笑みを浮かべた幽吹はベッドに腰掛け、両の手を広げた。迎え入れようとする姿勢。
「陰力を分け与えるのには時間がかかるから、なるべく身体を広く接した方がいいのよ。だからこれが一番だと思うわ。さぁ、きて」
ゆっくりと近付き、触れ合い、包み込まれる。陰力だけじゃない、暖かさもくれる。
「それにこれなら、もし他の奴に見つかっても、言い訳が効くでしょう?」
確かに。陰力を分けるためにやってるんだ、何か文句でもあるか……などと。幽吹が言う様まで想像できる。
だが、それ以上の行為に及ぶと、そうはいかない。
「私はこれが好きなの。気付いちゃった。癖になりそう」
耳元で囁いてくるので……
「俺も好きだよ」
そう囁き返してみた。
すると幽吹は微笑を浮かべたまま睨みつけてくる。やってくれたな、とでも言いたげである。
「……さっき、私の頭撫でたでしょ。あれ、もう一度やってくれる?」
「ああ、それなら喜んで」
幽吹の頭に手を回す。
今までは俺が幽吹に抱き抱えられるような形のハグだったが、今度は一転して俺が幽吹を抱き抱える形になった。
「ごめんね。さっきは他の連中がたくさんいたから。銀竹や嵐世だけなら別にいいんだけど……」
逢魔や氷雨、他の雪女達には見られたく無かったのだろう。
そして俺はそんな気高い幽吹が好きなんだと思う。
「百鬼夜行の集会はどうしたい?」
幽吹が質問してきた。先ほど、嵐世と銀竹が言い争っていた話題だ。
「俺は……幽吹達に迷惑をかけたくないし、村に残ろうと思ってる」
良いとも、駄目だとも言わず、幽吹は一つだけ頷いた。
その反応がまた俺を安心させてくれる。
だが、一つだけ心配な点が残っていた。
「幽吹達は集会を終えたら、そのままイナノメ軍との戦いに突き進むの?」
俺の知らないところで戦いが始まり……幽吹はそのまま村に帰ってこないのではないか。そんな不安にかられていた。
「……そうなるでしょうね。でも安心して。集会の後、私はすぐに司の下に戻るから」
俺の不安を察したかのように答えてくれる。
「主導者の役目は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。もし辞められそうなら辞めるし。例え辞められなくても、他の妖怪への指揮、伝達は嵐世がやってくれるから」

#小説 #ヨアカシの巻 #ガリョウの章

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